感染者のうち、生涯で結核を発病するのは1~2割だ(※イメージ)
感染者のうち、生涯で結核を発病するのは1~2割だ(※イメージ)

 結核は人から人にうつる感染症だ。咳やくしゃみによって空気中に放出された結核菌を吸い込んで感染するが、感染しても免疫力が高ければ、結核菌は死滅するか体内で休眠状態になり発病しない。感染者のうち、生涯で結核を発病するのは1~2割だ。

 しかし何十年も休眠状態にあった結核菌が、加齢などで免疫力が落ちることによって勢いづき、発病してしまうケースが多い。現在、日本の結核発症者は、若いころに感染したとみられる60歳以上が7割以上を占めている。

 都内の会社で嘱託社員として働く清水幸一さん(仮名・67歳)は、昨年11月、3週間近く咳が続いていたため、風邪薬を処方してもらうつもりで近所のクリニックを受診した。しかし胸部X線写真を見た医師から「結核の疑いがある」と言われ、慌てて紹介先の国立病院機構東京病院を訪れた。顕微鏡で痰を調べる塗抹検査をすると結核菌が見つかり、結核と診断された。

 清水さんを担当した外来診療部長の永井英明医師はこう話す。

「結核は大腸や腎臓などに病巣を作るものもありますが、大部分は肺結核です。塗抹検査で陽性となった場合には、『排菌(咳やくしゃみとともに結核菌が空気中にばらまかれること)』していて周囲に感染させる危険があるため、感染症法によって感染症病棟への入院が義務付けられます。清水さんもすぐに入院し、治療を開始しました」

 結核の標準的な治療は、2~4種類の抗結核薬を使った多剤併用療法だ。1剤だけで治療すると、菌がその薬剤に対して耐性となってしまうので、作用の異なる薬を組み合わせることで、耐性菌の出現を抑えることができる。

 標準治療は最短でも半年間におよぶ。最初の2カ月は最も抗菌効果が強いリファンピシンとイソニアジドを含む4種類の薬で徹底的に菌をたたき、その後の4カ月間は、いずれかの2種類を飲み続けて確実に抑え込む。

 この間に塗抹検査をして3回連続陰性になれば、感染させる危険はないと見なされ、退院して外来治療に切り替えられる。

 清水さんも入院2カ月後に退院。自宅近くの内科クリニックに月1回通院して薬物治療を続け、仕事にも復帰した。通院治療は4カ月で終了し、今はフルタイムで元気に働いている。永井医師は言う。

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