本山さんに腕を押さえてもらって胸筋を鍛える。これらの筋トレで胸の筋肉が自由に動くようになった(写真:本人提供)
本山さんに腕を押さえてもらって胸筋を鍛える。これらの筋トレで胸の筋肉が自由に動くようになった(写真:本人提供)

 筋トレが認知症の改善に繋(つな)がる――。そういうのは、オリーブクリニックの本山輝幸さんだ。本山さんから筋トレ指導を受けている、認知症早期治療実体験ルポ「ボケてたまるか!」の筆者・山本朋史記者(63)もそう実感しているという。

*  *  *

 著書の『ボケたくないなら筋トレをやりなさい』(KADOKAWA)に本山理論の詳細が書いてある。

「運動習慣があるにもかかわらず、認知症を発症する人がたくさんいることに疑問を持ち、私はこれまで14年以上も認知症やMCI(軽度認知障害)の人に筋トレを教えてきました。結論はボケやすい人は、脳と感覚神経が繋がっていなかったのです」

 感覚神経とは聞きなれない言葉だが、これが本山理論の核心だ。

「私たちの脳は小脳と大脳、それに脊髄(せきずい)と脳を繋ぐ脳幹からできています。この脳幹の中でも意識の維持に深く関与しているのが脳幹網様体です。筋肉からの刺激が脳幹網様体を通過することで、大脳皮質へと伝わります。このシステムが感覚神経です」

 筋トレをやる前や後にこの話を何度も聞かされた。刷り込まれている。

「感覚神経を繋げるために、さまざまな指導をしてきました。いちばん脳を活性化させるのが、白い筋肉を鍛えるちょっと強めの筋トレだと分かりました。これまで延べ千人以上を指導してきました。まだ、確実な科学的根拠を証明できてはいませんが、ほとんどの人が繋がりました」

 これから先の言葉にぼくは、はっとした。最近とても感じているからだ。

「脳の細胞がβアミロイドなどによって壊されていても、筋トレで感覚神経を繋げて脳に刺激さえ与えれば生き残っている脳細胞が働き始める。代償作用です」

 脳細胞がほとんど壊されていれば繋げることもできない。症状が相当に進行してしまった人の場合は残念だがやむを得ない。認知症を発症した人でも初期であれば繋げることは可能というのだ。使っていなかった脳細胞が新たに動き出すとどうなるのだろう。

 この本山理論に半信半疑だったぼくだったが、実践するうちに煮え切らない気分は吹っ飛んだ。そう、信頼に変わった。

 風呂場で半身浴をしているときに鏡を見ながら胸を動かしてみた。どんなに力を入れたり念じたりしてもピクリとも動かない。それが半年ぐらい経過した時点から胸筋がついてきたのだろう、少しずつ動くようになったのである。教室で筋トレのトレーニング中に本山さんはいきなり、

「山本さんは、胸の筋肉が自由に動かせるようになりました。みなさんにちょっと見せてあげてください」

 調子に乗ってぼくはシャツを脱いだ。胸を動かす。ささやかにピクピク。それでも仲間から拍手をもらった。今では、本山さんには及ぶべくもないが、当初に比べれば大きく動く。

「感じがつかめたら、どんどん動かす。そのたびに脳に刺激が上がります。これは脳波の検査で分かっています。胸だけでなく耳でも背中でも、動かせるところは動かしてください」

週刊朝日 2015年9月4日号より抜粋