嵐山光三郎「バカな鮫ほどおそろしい」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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嵐山光三郎「バカな鮫ほどおそろしい」

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週刊朝日

遊泳禁止になった海水浴場も…

遊泳禁止になった海水浴場も…

老人と海

ヘミングウェイ著/福田恆存訳

978-4102100042

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軍用鮫 [Kindle版]

海野十三著

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 今年の夏は鮫のせいで多くの海水浴場が遊泳禁止になった。作家でエッセイストの嵐山光三郎氏は本誌連載エッセイ『コンセント抜いたか』でその危険性を指摘する。

*  *  *
 ヘミングウェイが1952年に書いた『老人と海』は、年老いた漁師が大カジキを釣りあげ、三日かかって揚げる。大カジキを舟のわきにつないで帰港する途中、鮫に襲われ、もりを突き、オールで鮫の頭を殴りつけたが大カジキは食い荒らされ、港に着いたときは骨だけになってしまう。

『老人と海』より15年前に海野十三(うみのじゅうぞう)という科学小説家が『軍用鮫』(昭和12年)を書いた。中国政府の依頼でヤン博士は日本の軍艦を食い荒らして撃沈させる鮫を開発した。訓練した軍用鮫の精鋭7000頭が大艦隊を攻撃して沈没させたが、沈没したのは中国の軍艦だった、というお話。図体がでかくても鮫はバカだから、それを「鮫の脳」という。しかし、バカで凶暴ほど怖いものはない。

 駿河湾沖に船を出して釣りをした。船上で鯵(あじ)をさばいて内臓を海に捨てると、「鮫がくるぞ」と船長に注意された。魚の内臓を捨てるとカモメがやってきて食べるが、血の匂いをかぎつけて鮫がきて、船底をガリガリとかじるらしい。

 鮫といってもいろいろの種類があり、小笠原諸島の父島だったと記憶するが、入江の海底にいる鮫は人間に食いつかない鮫だから、シュノーケリングで観察できる、ときいて観察にいった。ガマグチみたいな口がついていた。

 サイパン島でダイビングをしたときはアオ鮫に会った。海底30メートルぐらいを潜っていると、上の海面をアオ鮫が3匹泳いでいた。一緒にいたインストラクターが、口元に指をあてて、シーッという合図をして、動くな、と指示され、さすがに緊張した。

 サンゴ礁につかまって、15分ぐらいやりすごすと鮫が去っていった。鮫が去ったあと、海底を這うようにして移動して、船に戻った。戻る途中、海中に細長いフンドシのような布が浮かんでいた。布には墨跡あざやかに「南無妙法蓮華経」と書いてあった。インストラクターに訊くと一週間前に日本のダイバーが流されて死に、遺族が供養しにきたのだという。

 南の海に「南無妙法蓮華経」の布とアオ鮫がたむろしている図はなかなか不気味な景観であった。

週刊朝日 2015年9月4日号より抜粋


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