北原みのり「トイレに落書きできない時代」 (2/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

AERA dot.

北原みのり「トイレに落書きできない時代」

連載「ニッポン スッポンポンNEO」

このエントリーをはてなブックマークに追加
安倍政権になってから、トイレに関する話題が多い?(※イメージ)

安倍政権になってから、トイレに関する話題が多い?(※イメージ)

『市川房枝自伝』には、1935年に起きた「天皇機関説攻撃」に、市川さんが大変なショックを受けたことが記されていた。1912年に、憲法学者だった美濃部達吉氏が発表した「天皇機関説」が、この年、突然攻撃の対象になり、貴族院議員だった美濃部氏は辞任に追い込まれ、さらに暴力団に襲撃された。「天皇は国家の一機関」というのは、当時の司法試験で「正解」とされていた考え方だったというのに、それが突然、百八十度全く違う考えが、「正解」になってしまった。正に「空気」がなせる業だ。

 市川さんは美濃部氏とは親交がなかったというが、あまりにショックだったため、植木鉢を持って美濃部氏の自宅を訪ねたという。その日は会えなかったが、後日、美濃部氏からこういう手紙が来たと記されている。

「こういう時代になり、あなた方の運動も困難になるでしょう」

 思い詰めた顔の権力者が力ずくで「平和」「正義」を訴える時代。冷静な議論ができなくなる時代。物を言えなくなる時代。トイレに落書きできなくなる時代。そんな空気に支配される時代。

 天皇機関説攻撃事件から2年後、日本は本格的に戦争をはじめていく。そうなった時はもう、誰も何も言えなくなっていた。市川さんも、政府に協力していく。戦争反対、など言える空気はゼロになっていた。

 同じ過ちを繰り返さないために。とにかくこの空気を攪乱すること。トイレではリラックス、思う存分「戦争反対」と言って、のんびり笑って、空気読まないでいたい。

週刊朝日 2015年8月21日号


トップにもどる 週刊朝日記事一覧

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

関連記事関連記事

このエントリーをはてなブックマークに追加
あわせて読みたい あわせて読みたい