吉永小百合さんよしなが・さゆり 東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。11歳で連続放送劇「赤胴鈴之助」に出演、13歳で松竹映画「朝を呼ぶ口笛」で映画界にデビュー。日活の専属を経てフリー。おもな主演映画に「キューポラのある街」「伊豆の踊子」「細雪」「動乱」「北の零年」「母べえ」「ふしぎな岬の物語」など @@写禁
吉永小百合さん
よしなが・さゆり 東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。11歳で連続放送劇「赤胴鈴之助」に出演、13歳で松竹映画「朝を呼ぶ口笛」で映画界にデビュー。日活の専属を経てフリー。おもな主演映画に「キューポラのある街」「伊豆の踊子」「細雪」「動乱」「北の零年」「母べえ」「ふしぎな岬の物語」など @@写禁

 戦争の犠牲者に祈りを捧げる夏を迎えた。戦後70年。焦土からの驚異的な復興と、平和な社会をつくりあげながら、安全保障政策で今、日本が岐路に立つ。戦後に寄り添い、数多くの映画に出演してきた吉永小百合さんが、戦争の愚かさ、平和の尊さを語った。

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 今年はワシントンで、画家・丸木位里、俊夫妻の「原爆の図」の展覧会が開かれていますよね。原爆投下直後の広島で、惨状を目の当たりにし、原爆を描くことをライフワークとした夫妻です。惨状を写真で直接伝えることも大切ですが、作家のフィルターを通して詩や小説、絵画、演劇といった表現で伝えることで、写真とはまた違う共感を呼ぶということもあると思います。

 そういう意味でも、ヒロシマの悲劇を最も強く伝える戯曲が、井上ひさしさんの「父と暮せば」だと思います。原爆で死んで幽霊になった父と生き残った娘の物語です。

 この本の冒頭で、広島と長崎に落とされた原爆のことを、日本人の上に落とされただけではなく、人間の存在全体に落とされたものであり、だからまた、あの地獄を知っていながら、知らないふりをするのは、なににもまして罪深いことだと述べています。

 人間が人間として生きることも死ぬことも、一瞬にして奪ってしまう原爆は、本当にとんでもないこと。その現実を私たちは絶対に知っていなければならないと思うんですね。

 どんな反対や困難があっても、原爆展も続けていくことが大切なんだと思います。めげそうになっても、つらい状況の中でも声を上げて、戦争はいけない、核はいやだと伝えていかなければいけないと思うのです。

 その真実の姿を見なかったために、とても残念なことに、私たちはもちろんのこと、被爆者さえも、これだけ大きな力を持つ核なんだから、平和に利用したら素晴らしいエネルギーになるんじゃないかと思ってしまいました。そして、ちゃんとした知識も持たずにうかうかしているうちに、この狭い列島に54基もの原発ができて、福島の悲劇を招きました。

 あれから4年も経つというのに、いまだに放射性汚染水が漏れているという報道があります。福島の人たちの怒りと悲しみは今でも癒やされることはありません。

 そしてあの大震災の夏、服飾デザイナーの三宅一生さんからの依頼で、福島の原発被災者の方の詩を朗読しました。三宅さんには前々から原爆の詩の朗読をとお声をかけていただいていたのですが、3・11後に、福島の詩人・和合亮一さんの詩を託されたのです。そして今年の3月、福島の詩人たち、子どもたちの詩を朗読したCDを作りました。それが、「第二楽章 福島への思い」です。

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