「30分ほど部屋などで休んでから入りましょう。部屋にお茶菓子があったら、食べたほうがいいですね。実はあの菓子には“おもてなし”以外の意味があるんです。茶を飲み、菓子を食べることで血糖値が上がる。それで体の準備が整うのです」(同)

 疲れを癒やすために温泉へ出かけるのはいいが、病後すぐや動く体力さえないほどの疲労があるときは、温泉に入るのは避けたほうがいい。

「人間は体温を一定に保つ動物で、体温の高低があるとそれを元に戻そうとします。疲労が強いとその調整ができないので、温泉に入ることでかえって疲労感が増し、具合が悪くなることも考えられます」(同)

 スケジュール的にも余裕が欲しいと、温泉ソムリエでライターの小林真理さん。

「1泊2日でも、日帰りでもいいのですが、移動には余裕をもってほしい。慌ただしく到着して、元を取ろうと何回も繰り返し温泉に入るのは、逆に疲れをためて帰ることになり、よくありません」

 高齢者は足元にも注意だ。硫黄泉などの泉質ではぬめり感があるので、つるっと滑ってしまうキケンがある。移動はゆっくり、落ち着いて。また、あせもなどで皮膚が荒れていたり、乾燥でかゆみが出たりしているような場合は、刺激の強い硫黄泉などは控えたほうがいい。

 日本には2万8千ほどの源泉があり、温泉地は3185カ所ほど。日本温泉気候物理医学会には、約200人の温泉療法専門医と約1千人の温泉療法医がいる。問い合わせれば、医学的な根拠に基づいて、その人に合った温泉地や泉質、入浴法などを指導してくれる。上手に活用して、夏の温泉を楽しんでほしい。

週刊朝日 2015年8月21日号より抜粋