痛みを軽減するための運動療法として、矢吹医師は佐山さんにウォーキングを勧めた。しかし佐山さんは「痛みがあるのに、外に出てウォーキングをする気になんてなれない」と言う。そこで矢吹医師は少量の抗うつ薬を処方した。

「抗うつ薬には痛みを抑制する神経の働きを活性化するセロトニン、やる気を出すノルアドレナリンを増やす作用があります。痛みの原因がはっきり特定できず、運動や外出する気力もないという場合、抗うつ薬が効くのです」(同)

 抗うつ薬は頭痛、口の渇き、排尿障害など副作用があり、使用量や使用期間など使い方は注意が必要だ。

 抗うつ薬を2週間ほど飲むと、痛みが少しラクになり、佐山さんは運動療法を試す気持ちになった。そこで矢吹医師は1日30分のウォーキングを週2回、できれば腹筋や背筋もおこなうようアドバイスした。3カ月経った現在、痛みはまだ残っているが、からだを動かしたほうが調子がいいと、佐山さんはウォーキングを1時間に増やして運動療法を継続中だ。

「運動で筋力がつき、活動性が増します。痛くても動ける、できることが増えると、気持ちも前向きになるでしょう。また適度な運動には生活習慣病や認知症の予防など、メリットがあります。ストレッチでもラジオ体操でもかまいません。腰に負担がかかりすぎない範囲でからだを動かすことが、慢性腰痛の軽減や再発予防につながります。その際に認知行動療法の併用も効果的です」(同)

週刊朝日  2015年8月14日号より抜粋