「老後の不安よりも今の不安が強くて。1年先のことも考えられない」(※イメージ)
「老後の不安よりも今の不安が強くて。1年先のことも考えられない」(※イメージ)

 厚生労働省の調査によると、派遣労働者の数は約126万人(2014年)。減少傾向にあるが、中高年(40~50代)の占める割合は04年の21.6%から12年には35.7%まで上昇した。労働問題に詳しい三浦直子弁護士は言う。

「派遣法は1999年に大幅に自由化されました。その頃に派遣労働者になった人たちが、40~50代になっています。ただ、若い頃は派遣先が決まりやすくても、40代で働ける職種が狭まり、50代になるとさらに厳しくなる。家庭を持ち、子どもがいれば最も支出が増える年代に、収入がどんどん減っていくのです」

 最近、定年後に受け取る年金が少なく、貯蓄もないために生活費に困る「下流老人」の増加が問題となっている。中高年の派遣労働者は日々の生活が厳しく、下流老人の「予備軍」になっているのが実情だ。

 埼玉県に住む大沢俊樹さん(51、仮名)は、大手印刷会社子会社のA社で、プリント基板や内蔵部品基板を作る工場で仕事をしていた。昼夜2交代制で、1日の労働時間は12時間。10年前に働き始めたが、08年のリーマン・ショックを機に仕事が激減。09年に解雇された。

「時給は1060円で、月収は20万~25万円ぐらい。交通費の支給は月6千円が上限で、毎月4千円ぐらいが持ち出しでした」

 大沢さんは収入が少ないために年金を滞納しがちで、老後にどの程度の額の年金が受け取れるかわからない。老後の生活についてたずねると、こう言った。

「老後の不安よりも今の不安が強くて。1年先のことも考えられない」

 フルタイムで仕事をしていたのに、給料が少なかったのは雇用契約に問題があったからだ。大沢さんはA社との雇用契約はなく、A社の子会社であるB社に雇われていた。ただ、B社に行くのはタイムカードを押すときだけ。B社から仕事の指示を受けることはなく、実態はB社からA社に派遣されている派遣労働者だった。これは違法な「偽装請負」にあたる。

「さらに、B社とA社の間にC社が入っていて、ここがA社と業務請負契約をしていました。A社がC社に払っていた時給は2100円。それがB社を経由して私の手元に入るときには、時給が1060円になっていた。B社とC社が違法なピンハネをしていたのです」(大沢さん)

 明らかな違法行為に憤りを感じた大沢さんは、09年にA社を提訴。今年3月に出た判決では、労働基準法6条と職業安定法44条に違反する偽装請負にあたると認められたものの、損害賠償請求は棄却された。

「違法に賃金がピンハネされても罰則なし。これが派遣労働者の実態です」(同)

週刊朝日 2015年8月14日号より抜粋