溢れる果実香に驚きの凝縮感
溢れる果実香に驚きの凝縮感

 フード&ワインジャーナリストの鹿取(かとり)みゆきさんが、日本ワインを紹介する。今回は山形県朝日町の、溢れる果実香に驚きの凝縮感が持ち味の「柏原ヴィンヤード遅摘み2014(赤)」。

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「ぎゅっと、ブドウを指で潰してみると、黒々とした果汁が皮から染み出して、濃密な香りが辺りに漂うんです」

 山形県にある朝日町(あさひまち)ワインの醸造家、鈴木智晃さんは、「遅摘み」といわれるマスカットベリーAを収穫するときの光景をこう語る。この種の収穫時期は通常、8月下旬から10月中旬。しかし、ワイン名になっている柏原地区では、11月初めと遅い。豪雪地帯の朝日町のなかでもとりわけ雪深く、春が遅い。収穫がずれ込むのに加え、より完熟させて甘みを出そうと農家がねばるのだ。

 とはいえ、農業は常にリスクと背中合わせ。秋の台風や長雨で病気になれば、ブドウは台無しだ。鈴木さんはそれでも、遅摘みは別格だと話す。

「ブドウの濃縮感が増すので、樽の香りに頼らなくとも、強いワインができるのです」

 昨年は天候にも恵まれた。糖度が22度、とふだんより1割も高い果実もあった。「柏原ヴィンヤード遅摘み」は、完熟しきったブドウを醸す味を楽しめるワインなのだ。

(監修・文/鹿取みゆき)

週刊朝日 2015年8月14日号