運転免許は早いうちに返上するべき?
運転免許は早いうちに返上するべき?

 免許証更新の時に認知機能検査を実施して「認知症の疑いがある」となると医師の診断が必要になるという。認知症予備軍の軽度認知障害(MCI)で認知症早期治療実体験ルポ「ボケてたまるか!」筆者の山本朋史記者(63)は、自身の経験をこう語る。

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 ぼくは認知症の人の家族の取材で、運転免許証を取り上げることで揉めた話を何度も聞いている。認知症の人と家族の会事務局の方が話す。

「車の運転についての相談が最近は増えています。認知症の人が高速道路を逆走したり、事故を起こしたというニュースが増えているからだと思います」

 強引に車のキーを取り上げても逆効果になることもある。本人を説得して納得ずくで、つまり理解してもらうことが大切だという。

 ぼくも運転免許証の返上を決意した。大学入学と同時に運転免許教習所に通って取得して40年以上になる。

 記者生活の振り出しは毎日新聞静岡支局で当時はマイカーで取材したものだ。現在は車も手離したペーパードライバーだが、数年前まではレンタカーで妻と犬を乗せて東北にドライブしたこともある。

 免許をチャラにするにあたっては少し悩んだ。会社を完全に辞めてから時間が自由に使える身になったら必要になるのではないか、と考えないでもなかった。しかし、ぼくはもともと運転がうまくはない。好きでもない。自分の認知機能を疑うなんて思いもしなかった頃でさえ、スピード感が鈍くて怖い思いをした。下手に免許証を持っていると車で間違いを犯す結果になるかもしれない。

 運転資格なんて早いうちに返上してしまったほうが正解だ。イラストレーター・漫画家の山藤章二さんは75歳になった時に免許証を返上した。警察は代わりに身分証明書として使えるカードを渡してくれたという。

 ぼくは最寄りの警察署に向かった。最近はレンタカーも含め車を動かしていないのでゴールド免許だ。更新の時期は来年3月の誕生日。受付で聞くと、

「運転免許証の返上は免許更新の際に申し出ていただければ処理します。手続きができる警察署に行って詳しく聞いてください」

 ペーパードライバーだから来年の3月まで運転しなければ何の問題もないということなのだろう。

 75歳以上の高齢者には運転免許証更新手続き時に認知機能テストが課せられている。最近の道路交通法改正によって、このテストで「問題あり」となった場合は、専門医の診断を経て、医師の許可が出ないかぎり、運転できなくなることになった。無視すれば道交法違反に問われる。

 来年3月に64歳となるぼくには、まだ認知機能テストの義務はない。しかし、認知症早期治療をしている身には、免許はもう無用の長物、執着はまったくない。

週刊朝日  2015年7月31日号より抜粋