“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、ユーロの崩壊をこう危惧する。

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 2010年代初めのギリシャ危機の時、ギリシャ人の友人に「ユーロ離脱の可能性について」聞いた。彼が「離婚結婚より難しいんだよ」と答えたことを今でも覚えている。

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 先日、BS日テレの「深層NEWS」に出演して、「ギリシャ危機の行方」について討論をした。その時、近藤和行キャスターに「藤巻さんは、週刊誌に『日本の財政危機を唱え続ける私は、オオカミ少年と呼ばれている』とご自身で書いていらっしゃいましたね」と言われた。近藤さんもこのコラムを読んでくださっているのだ。光栄だ。

 そこで思い出したのが、ユーロに関してもオオカミ少年と言われ続けていたことだ。モルガン銀行時代の私は、欧州の通貨や金利商品をそれなりに取引していた。しかし1999年にユーロが出現してからはユーロに全く手を出していない。発足当時からユーロの限界を指摘し、自らもユーロ取引から撤退したのだ。

 もっとも私は評論家ではなく、ディーラーだったのだから、ユーロ・ブームの時にユーロ商品を買い、近年売り出すのが正解で、何もしなかったのは褒められたものではない。失敗だ。

 最近でこそ、多くの学者やマーケット参加者が、私の主張と同じことを言い始め、この件に関してだけは私もオオカミ少年と言われなくなったが、ユーロには構造的問題がある。今回、事態が収まったとしても、いずれ崩壊が起きるだろう。

 
 ある地域で同一通貨を使っているのは、その地域が旧通貨を使用しながら為替の固定相場制を敷いているのと同じだ。1ドルをいつでも120円で交換できる固定相場制と、日本と米国がドルと円を廃止して「ドルエ」(仮称)という新しい通貨を流通させるのとは全く同じだ。便宜的にドルエを刷るか否かの差に過ぎない。その意味でユーロは地域固定相場制なのだ。日米が固定相場制を取っていたら、国民は高い金利のドル預金ばかりして円資金市場は消滅するだろう。満期の時に為替で損するリスクがないからだ。それを回避するために日本銀行は経済状況と無関係に円金利をドル金利と同じにしなくてはならない。米国では9月か12月に利上げが予想されているが、日銀はデフレだろうがなんだろうが、円金利を上げなくてはいけないのだ。

 抜本的解決策は、財政を一つにする、すなわち一つの国になることだ。夕張と東京は円という地域共通通貨を使っているのに、夕張の壊滅的な破綻を誰も予想しないのは、東京都と夕張が日本という同じ国で財政が一つだからだ。「勤勉な我々の税金で、なぜ怠け者ギリシャを助けるのだ」と主張するドイツ人が多いと聞くから、ユーロ圏で財政が一つになるのは無理だろう。ユーロはいずれ「壮大なる実験の失敗」という結末を迎えると思う。

 もっともユーロ圏が消滅したとしても、通貨ユーロが無価値になるわけではない。そうだとしたらユーロ圏の人たちは大貧乏になってしまう。ユーロは旧通貨に分解されるだろうが、どういう割合で分解されるかがわからない。8割をドイツマルク、その他を他通貨に分解するなら私は今ユーロを買うし、8割をギリシャ・ドラクマに分解するのなら、私はユーロを売る。その割合がかなり不透明だから、今後とも私はユーロに手を出したくないのだ。

週刊朝日  2015年7月31日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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