原発再開や安保法制など安倍政権の方針に大きな疑問を持つ作家の室井佑月氏。しかし、報道機関に対する思いは安倍首相に賛同する。

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 安倍自民応援団の大西英男議員が、厳重注意を受けながらまたいった。「(安保法制を)全く事実無根の戦争に導く、徴兵制と報道している一部マスコミを懲らしめなければいけない」と。

 あのさ、与党議員、安倍一派のあなたがそういうことをいうのが、問題なわけ。マスコミへの恫喝になってしまうから。なぜ、そんな簡単なことが理解できないのかな。バカなのかな。沖縄の新聞も、つまびらかに読んでないらしいし。

 徴兵制まで進む議論がおかしいと思うなら、まずお仲間同士で意見の調整してきてほしい。文部科学省の有識者会議で「奨学金の返済延滞者は防衛省でインターンシップをやってもらう」、そんな話も出たらしいし。そういう現実はスルーかよ。

 まあ、そんなことはどうでもいいわ。大西さんはヤバくなったら真っ先に捨てられるタイプ。そこの部分は、メディア業界にいるあたしと一緒。ちょっと同情しなくもない。

 ところで、世の中には大西さんみたいなのが増えてきている。安倍政権に楯突く人間をいっせいにディスり、ネットで悪口を書いたり、反論者が出ている番組に「あいつを出すな!」という電話をかけたり。きちんとこちらの意見を聞いての反論じゃないなら、ただの嫌がらせだ。

 
 出ているワイドショーで、新幹線の焼身自殺事件を扱った。「テロに襲われたらどうする」という問題定義で番組を作っていた。

 新幹線も空港なみに厳重警備にしたほうがいいのではないか、という流れだったから、

「でも、新幹線だけじゃないですよね。人がたくさん集まるコンサートホールとか、普通の在来線だって危ないということになってしまう。どこかで線引きをしないと。これからすべてに不安を感じて生活するの?」

 というようなことを発言した。そして、

「だから、テロに狙われないような外交がとても大切なんだと思う」と。

 でも、その発言がすごく批判されてさ。

「室井が新幹線の意味不明な老人の自殺を、新幹線の安全神話が崩れたという暴論」「バカ女、そもそもテロじゃないのに」「結局は安倍批判したいだけ」だって。日本語が通じないな。

 ま、あたしがすべてを安倍批判に結びつけたいわけじゃない証拠でもあげておこうか。

 7月3日の国会で、自民党の若手や作家の暴言について、民主党の枝野議員に突っ込まれた安倍総理は、

「(自民党の圧力に)報道機関がほんとうに萎縮しているというなら、報道機関にとって恥ずかしいことなのではないか」

 といっていた。つまり、権力に立ち向かわずにおもねる報道機関が馬鹿だし悪い、といったんだ。あたし、安倍さんのその意見には大きく賛同するわ。

 業界の末端、トカゲの尻尾からのお願いです。恥ずかしい人たちと思われながら、呼び出され、ホイホイ飯を食いにいくのやめれ。

週刊朝日 2015年7月24日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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