ぼくは取材であれ講演の依頼であれ、こんな自分の経験が役に立つのであれば協力したいと思っている。話をすることで自分の頭も整理されるような気がするからだ。すでに、来年9月に本市で開かれる日本早期認知症学会での当事者としてのスピーチまで、講演の依頼が何件か来ている。

 マスコミの取材を受けたおかげで新しい発見もあった。ぼくを診てくれた東京医科歯科大学特任教授の朝田隆医師がどうしてMCIと判断したか。それまで、

「MRIの画像では脳の海馬の部分の萎縮は年齢相応のものですが、敏捷性に少し問題があるのと認知機能検査でのケアレスミスが多い」

 という理由でMCIと診断したと説明されて了解していたのだが、テレビ朝日・スーパーJチャンネルのディレクターの粘っこい追及で、朝田医師はぼくの脳血流スペクトの画像を示して、こう言った。

「山本さんの脳のこの部分の血流が一般の人に比べると悪い。これです。この部分。これも判断材料の一つになりました」

 同席していたぼくは、ここで初めて深く腑に落ちたのだ。確かに画像を見る限り、血流が流れていると赤い画像になるのに、流れが悪くなっているやや青い画像の部分が何カ所か見られた。ぼくは本当のことを知るのが怖かったのかもしれない。朝田医師を問い詰めるということをしていなかった。改めて説明を請うと、

「テレビの人には画像で説明したほうが納得してくれるので脳の血流スペクトの話をしました。もちろん、山本さんの脳の血流が後頭葉で悪いのは事実です。ただ、検査した日にちによっても違うでしょうし、個体差もある。それほど大きな問題点ではありません」

 朝田医師は丁寧に解説してくれた。本当に? ぼくは疑心暗鬼に陥っている。心配だ。だけど、右往左往しながらも、早期治療を続けるしかない。

週刊朝日  2015年7月17日号より抜粋