西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、球界を盛り上げるためにプロ野球界の使命としてアマ育成も大切だという。

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 先月29日、ユニバーシアード夏季大会(7月3日開幕、韓国・光州)に出場する侍ジャパン大学日本代表とNPB選抜との壮行試合が行われた。創価大3年の田中正義は噂通りの投球だった。高校では外野手だったと聞く。まだまだ伸びしろがあるし、もっとすごみを増して、プロの世界に飛び込んでもらいたい。

 田中はスカウトの間では「来年の超目玉」と位置づけられていたけど、やっぱりマスコミが大々的に報じることで、全国区のスターになっていく。その意味でも、2軍とはいえ、プロ選抜の打者相手に4回で8三振を奪ったことで、全国のファンも名前を覚えたことだろう。本人は大リーグ志向もあると聞くが、日米どちらにいっても大勢のファンの前で投げるのがプロ。その意味でも第一歩を踏み出したのではないかな。

 それ以上に大きいのは「プロとの距離感」を肌で感じることができたことだ。150キロを投げる投手はプロにはたくさんいる。プロ選手が直球を待っている中で、その直球で空振りをとれたのは大きな自信になるだろう。プロの世界で1軍でレギュラーを獲るには、まず肌で「1軍」との距離感を感じ、自信を深める部分や矯正や足りない部分を知ることから始まる。アマのうちから体感できたのは、大きな収穫じゃないかな。

 
 侍ジャパンが常設化され、11月に行われる世界大会「プレミア12」に向け、熊崎勝彦コミッショナーはロースター制度を導入すると公言した。つまり、常に代表選手の肩書がついて選手はプレーすることになる。小久保裕紀監督も「これから侍は毎年3月と11月に試合が組まれていく」と話す。トップチームの形がしっかりとれた今、次は各年代の代表との交流であり、日本代表のユニホームを着て戦う誇りや自信を植え付けてあげることも責務となる。

 サッカー日本代表は“飛び級”でトップチームに入る選手がいる。野球は高校野球の組織がしっかりしており、サッカーのようにピラミッド形とはいかない。だが、今回、1995年以来20年ぶりに開かれるユニバーシアードの野球競技のような各国際大会の前に、プロ側が積極的に試合を組んでほしい。大学、社会人の選手はプロ入り時、即戦力の位置づけになる。高卒ルーキーとは違う。1軍レベルで活躍できなければ、数年で解雇される。その意味でも、アマ時代からプロと対戦する機会はどんどん増やすべきだと思う。

 プロだってメンツがある。前述した壮行試合では、NPB選抜の面々の目つきが違った。「アマに負けるわけにはいかなかった」とのコメントも報道で見たが、同年代の選手同士の勝負は刺激になる。

 今年のドラフトでも、富士大・多和田真三郎、仙台大・原健人らの投手がドラフト1位で競合するのではないか、といわれている。今や、有能な指導者も地方に散り、全国どこからでもプロで即戦力として活躍できる選手が出てくるようになった。だが、普段のリーグ戦では、そこまで高いレベルの相手はいない。だからこそ、日本代表などで集まった時に、プロが相手できれば……と思う。中日の和田一浩のように大学、社会人を経た上でも2千安打を達成したように、アマ球界に可能性は転がっている。未来のスター育成もプロ野球界の使命だし、球界全体の活性化につながるはずだ。

週刊朝日 2015年7月17日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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