「車両設備を改善しても、今回のような放火や爆弾物を使ったテロ行為であれば、被害を防ぎようがない。だから『持ち込ませない』が大原則だ」

 海外では、英国とフランス、ベルギーを結ぶ鉄道「ユーロスター」で全乗客が金属探知検査を受け、手荷物はX線検査に通されるほか、スペインの高速鉄道も手荷物のX線検査がある。

 だが、東海道新幹線はピーク時には「のぞみ」「ひかり」「こだま」が1時間に最大15本運行し、乗客は1日約42万人にのぼる。安部教授は「空港のような手荷物検査が有効だが、大量の乗客の流れを妨げることになり現実的ではない。車内や駅構内に警備員を増やし、巡回を強化することが抑止力になる」と話す。

 鉄道各社の危機意識の低さを指摘するのは、警察とテロリストの闘いを描いた小説『外事警察』の著者で作家の麻生幾さんだ。

「2001年の米同時多発テロの直後、警察庁が何が最も脅威であるかを調べたところ、新幹線でのテロだった。警察庁は、東海道新幹線が最高速度を出す静岡県のあるポイントで、先頭車両の車軸上のデッキ部分が爆破されれば、脱線した多数の車両が高架壁を突き破り、民家へ激突するというシナリオまで想定した」

 だが当時、JR東海側は「多少の爆発物でも新幹線は脱線しない構造となっている」と答えるにとどまり、議論が深まることはなかったという。

「警察の対国際テロ専門家は『JR東海首脳がかつて口にした“多少”の概念は、劇的に変わった』と警告している」(麻生さん)

 今後、政府や鉄道各社はどの程度のテロを想定するか。「安全大国ニッポン」の見識が問われている。

(本誌・古田真梨子)

週刊朝日 2015年7月17日号