下流老人の復讐 年々増加する高齢者の犯罪

 新幹線内での焼身自殺というショッキングな事件に日本中が騒然とした。それもその動機は生活苦によるものと見られている。林崎春生(はるお)容疑者(71)は年金生活に行き詰まった典型的な「下流老人」。若い頃から35年間かけた年金は月々の生活費に消え、区議会議員に生活相談もしていた。

 しかし、JRが受けた被害も甚大だ。車両の修理代、被害者への慰謝料、さらにJR東海は約9万4千人の乗客に影響が出たと発表している。その賠償金や補償金は、きょうだいや親戚に支払いが求められる可能性もある。同容疑者の甥は困惑する。

「テレビでニュースを見ていると、事件直後の午後1時頃、神奈川県警から叔父の遺体確認をしてほしいと連絡があり、仰天しました。お詫び、賠償などどうしたらいいか、親族で話し合わなきゃいけないと思う」

 年金政策が行き詰まり、高齢者の犯罪は、いまや社会問題だ。法務省の2014年版「犯罪白書」によると、高齢者犯罪の中でも暴行や傷害といった「キレる」粗暴犯が急増しているという。最新のデータである13年の統計で比べると、暴行罪は23年間で約70.9倍、傷害罪は約12.4倍に急増している。殺人も約3.4倍だ。この間、高齢者の人口は約2.1倍しか増えていないことを考えると、いかに高齢者犯罪が急増しているかがわかる。

 一方で気を付けなければならないのは、「高齢者の貧困=犯罪」と短絡的に結びつけることだ。貧困に苦しむ高齢者の実態を記した『下流老人』の著者で、生活困窮支援のNPO法人「ほっとプラス」代表理事の藤田孝典さんは言う。

「日本では、貧困と犯罪の直接的な因果関係はありません。一方、貧困層の自殺率は一般の人に比べて2倍以上高い。実際には、下流老人たちは自宅でひっそりと自死する人が多い。もちろん、今回の犯罪は許されない行為です。しかし、自殺対策をしない限り、根本的な解決にはなりません」

 真面目に働いても、いつ「下流老人」になるかわからない国、日本。林崎容疑者のテロは、その現実を改めて突き付けている。

(本誌・上田耕司、西岡千史)

週刊朝日 2015年7月17日号より抜粋

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