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 70年代前半から東京堂書店神田神保町店に37年間勤め(2010年に退社)、長く店長だった佐野衛さん(67)。東京堂といえば、独自の棚づくりで知られ、本好きにはたまらない雰囲気に満ちている。佐野さんは戦後の書店について、本の内容の変化が売り場の画一化を招いたというのが持論だ。読者に必要な本を出して時代を啓蒙(けいもう)していくのではなく、出版産業を維持していく必要性が最優先にされてしまったという。インタビュアー・木村俊介さんが取材した。

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 利益のために出版の理念を曲げることが、90年代のバブル以降、平気で行われるようになりました。

 私が書店で定点観測してきて最もひどいと感じたのは、エンターテインメント系の本の粗製乱造です。作家は使い捨てになってしまうからかわいそうです。

 しかも、本質的には新しくなくても、仕立てを変えて新しい本が次々とつくられる。あまり本を読んでいない人がことさらに「今までなかった」と喧伝することが多くなった。結果として、書き手がどんどんと消費されて、すぐ消える書き手が増えた。

 人が何と言おうがこれを書くというのではなく、まず企画して売れそうな本を書くのが主流になりました。そうこうするうち、インターネットが出てくると、その座を食われてしまったわけです。代替がきかない本を出し続けていれば、出版業界の負う傷はもっと浅かったはずです。

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