伊藤比呂美いとう・ひろみ/1955年生まれ。詩人。80年代の女性詩ブームをリード。妊娠出産授乳の体験を書いた『良いおっぱい悪いおっぱい』が話題に。97年に渡米し、カリフォルニア州在住。著書に『読み解き「般若心経」』『日本ノ霊異(フシギ)ナ話』(ともに朝日文庫)など(撮影/写真部・松永卓也)
伊藤比呂美
いとう・ひろみ/1955年生まれ。詩人。80年代の女性詩ブームをリード。妊娠出産授乳の体験を書いた『良いおっぱい悪いおっぱい』が話題に。97年に渡米し、カリフォルニア州在住。著書に『読み解き「般若心経」』『日本ノ霊異(フシギ)ナ話』(ともに朝日文庫)など(撮影/写真部・松永卓也)
帯津良一おびつ・りょういち/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。『死を生きる。』(朝日新聞出版)、『がん患者を治す力』(朝日文庫)など多数の著書がある(撮影/写真部・松永卓也)
帯津良一
おびつ・りょういち/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。『死を生きる。』(朝日新聞出版)、『がん患者を治す力』(朝日文庫)など多数の著書がある(撮影/写真部・松永卓也)

 80年代の女性詩ブームをリード。妊娠出産授乳の体験を書いた『良いおっぱい悪いおっぱい』が話題になった詩人の伊藤比呂美さん(59)。がん診療とともに、養生にも造詣が深い名医・帯津良一先生(79)との対談で、老いてからの色気について語った。

*  *  *
 
帯津さん(以下、帯):老いてからの性については、女優の岸惠子さんがどっかのインタビューで「死ぬまで男と女」と答えていた。それでいいと思うんですよね。死ぬまで色気があったほうがいい。

伊藤さん(以下、伊):でも、機能的にはダメになっていきますよね。

帯:古代ローマの哲学者、キケローが著書『老年について』のなかで、舞台劇を見るのに最前列で見るのか最後列で見るのかの違いだよと言っている。最前列は若者、最後列は年寄り。最後列で見ても舞台は味わいがあるというんです。

伊:いい言葉ですね。

帯:うん。衰えても、味わいかたがあると思うんですよね。

伊:ところが、私のまわりの同じぐらいの年の女性は、もうあんなうっとうしいものをしなくていいという人が、けっこういるんですよ。私も連れあいに対して、もういいじゃん、「おつとめごめん」っていう言葉が英語であればいいなって思うことがありますよ。

帯:私は、だんだん衰えて枯れていくっていうのは嫌だなあ。

伊:帯津先生は衰えを感じないんですか。

帯:私はまだあまり感じないですね。

伊:うらやましい。

帯:まだ酒量が落ちないから、安心しているんです。毎日飲んでいる酒の量が減って、もうお銚子一本でいいということになったら、ちょっとさびしいですね。

伊:うちの連れあいなんかもう87でしょう。数年前からスコッチを飲まなくなったんです。イギリス人だから、スコッチしか飲まない男だったんです。それが、トニックにジンを混ぜたりして。私はあの人のスコッチを飲んでいる姿が好きだったの。スコッチを飲まないと色気がなくなる。この人衰えたなと思った。

帯:ジントニックじゃねえ。

伊:そうなんですよ。

帯:スコッチ以前にはあまり感じなかったんですか。

伊:ええ。もちろん性的能力はどんどん衰えたし、身体的にも関節炎がひどかったりしたけど、頭はしっかりしているし、いまだに仕事をしていますから。でもスコッチですね。スコッチがダメで色気がなくなった。でね、去年、イギリスに行った機会にアイラ島に出かけたんですよ。蒸留所を回ろうって。それで行ったら飲まないんですよ。バーに入ってね、ウォッカにトニックウォーターなんて注文しているわけ。何のためにここに来たのってがっかり。5年遅かったわ、ここに来るのがって思った。さっきおっしゃっていた色気を最後までっていうの、がんばってほしいですよね。

帯:でも85までがんばって。結構、がんばっていますよ。

伊:それは、28歳も若い者と一緒にいるんだから、もっと、がんばってもらわないと。

週刊朝日  2015年7月3日号より抜粋