また、東方神起のファンであることを絶対に他言しないファンも、増えている。ライブ会場に行くと、こんな会話が、あちこちから聞こえてくるのが当たり前になってきた。「会社に何て言った?」「親戚に死んでもらって」というのは普通で、「EXILEのライブに行ってることにしてる」などと目くらまし的に日本のスターを利用する人もいる始末。夫にすら内緒でコンサートに通う妻も珍しくない。

 それもこれも韓流が好きだと言うと、面倒くさいことになるからだ。「今の政治状況をどう思うの?」と夫に嫌みを言われたり「韓国アイドル好きだなんて、終わってる」と同僚にバカにされたりと、韓流が好きと言って良いことなどない、というのが、ここ数年で韓流女たちにたたき込まれた現実だ。

 遠くにいるスターを好きでいるために、近くの男たちの顔色をうかがう私たち。「韓国人が好きなわけじゃないんです! っていうか、彼らは韓国の歌手じゃないし!」と意味不明な方向でアピールしたり、または日本人アイドルのファンだと嘘をついたりと……。たかがアイドルのファンでいるために、こんな大変な思いをするなんて、どうかしてるでしょ。

 コンサート会場からバンコク市内まではタクシーで移動した。運転手は60代の女性で、東方神起の写真を見せると「かっこいいね」となかば呆れながら笑ってくれた。40年間銀行で働き、今は90代の父親と二人暮らしだという。働き続けた人生だ。彼女が20代だった時代、誰がこの国で、アジアの女たちが集まり韓国語の歌をのびやかに歌う日が来ることを想像しただろう?

 世界は思いがけない方向に、自由に変化し、留まることなく動いていく。キムチより辛いグリーンカレーを食べながら、この平和を手放したくないと思う。

週刊朝日 2015年7月3日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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