山藤章二やまふじ・しょうじ/1937年、東京都生まれ。広告会社勤務を経て、64年に独立。著書に『山藤章二のブラック・アングル25年 全体重』など多数。近著に『老いては自分に従え』(岩波書店)(撮影/写真部・岡田晃奈)
山藤章二
やまふじ・しょうじ/1937年、東京都生まれ。広告会社勤務を経て、64年に独立。著書に『山藤章二のブラック・アングル25年 全体重』など多数。近著に『老いては自分に従え』(岩波書店)(撮影/写真部・岡田晃奈)
姜尚中カン・サンジュン/1950年、熊本県生まれ。政治学者、前聖学院大学学長、東京大学名誉教授。『マックス・ウェーバーと近代』『悩む力』など著書多数。『こころ』をモチーフにした小説『心』なども執筆(撮影/写真部・岡田晃奈)
姜尚中
カン・サンジュン/1950年、熊本県生まれ。政治学者、前聖学院大学学長、東京大学名誉教授。『マックス・ウェーバーと近代』『悩む力』など著書多数。『こころ』をモチーフにした小説『心』なども執筆(撮影/写真部・岡田晃奈)

 本誌「ブラック・アングル」でおなじみのイラストレーター山藤章二さんと、夏目漱石をテーマにした『心の力』の著作などもある政治学者の姜尚中さんが語り合った“漱石対談”。文豪が抱いた近代への違和感と予見性を解き明かします。

*  *  *

姜:漱石は「愚見数則」という、学校教育改革に対する提言を記しているのですが、その中で、教員はまるで旅籠屋で生徒や保護者という旅人にゴマをすって取り入ろうとしている。こんなことでは教育はできんと。

山藤:教育がサービス業になってる、って、まさに今の状況と同じですね。のんびりゆったりしてもらって送り出そう、と。そういうシステムに異を唱えたんでしょうな。

姜:「人に教える以上は自分をさらけ出して真剣勝負だ」と書いています。しかし、こういうとんがった意見は上層部からは煙たがられたでしょう。

山藤:「ブラック・アングル」でも、ちょっと個人的なメッセージが強すぎたりすると、コンプライアンスという関所を通してくれません。どう言い換えたらコンプラさんは通してくれるのかと、いつも考えますよ。

姜:僕も大学で学長をしていたころは、朝から晩までコンプライアンス騒動でした(笑)。バカバカしくなることは少なくなかったですね。漱石の文章も、今読むとコンプライアンスに引っかかるものがいくらでもあります。風刺や皮肉がコンプライアンスという杓子定規に縛られていくと、メディアはどんどんつまらなくなっていくのではと危惧します。人類の歴史を見ても、宗教や権力が最も恐れたのは民衆の「笑い」ですから。それを抑え込もうとする力は非常に危険ですね。

山藤:異論は認めないという風潮も危ないと思います。ネット上ではそれがますます過激になっている。

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