早稲田大教授長谷部恭男(58)はせべ・やすお/1956年生まれ。東京大学法学部卒。学習院大学教授、東大教授などを経て、2014年から早大教授。主な著書に『憲法の理性』(東京大学出版会)、『憲法と平和を問いなおす』(ちくま新書)(撮影/写真部・東川哲也)
早稲田大教授
長谷部恭男(58)
はせべ・やすお/1956年生まれ。東京大学法学部卒。学習院大学教授、東大教授などを経て、2014年から早大教授。主な著書に『憲法の理性』(東京大学出版会)、『憲法と平和を問いなおす』(ちくま新書)(撮影/写真部・東川哲也)
慶應義塾大名誉教授小林節(66)こばやし・せつ/1949年生まれ。慶応義塾大学大学院博士課程修了。米ハーバード大学研究員などを経て慶大教授、弁護士。2014年に定年退職。主な著書に『「憲法」改正と改悪』(時事通信)(撮影/写真部・東川哲也)
慶應義塾大名誉教授
小林節(66)
こばやし・せつ/1949年生まれ。慶応義塾大学大学院博士課程修了。米ハーバード大学研究員などを経て慶大教授、弁護士。2014年に定年退職。主な著書に『「憲法」改正と改悪』(時事通信)(撮影/写真部・東川哲也)

 衆院憲法審査会で3人の憲法学者が安保法制を「憲法違反」と述べたことが、大きな波紋を広げている。違憲性が改めて問われ、政府与党は動揺。長谷部恭男早稲田大教授(58)と小林節慶應義塾大名誉教授(66)、注目の2人が緊急対談した。聞き手は朝日新聞論説委員・小村田義之。

*  *  *

小村田:安保関連法案はどうすればいいですか。

長谷部:結論は、やっぱり撤回していただく。

小林:間違ったことは素直に反省して撤回してもらうのが筋ですよ。

小村田:仮に与党が強行採決して成立した場合、その後にどんな事態が考えられますか?

長谷部:大変な世論の反発があると思います。次の選挙に響くと思いますね。

小林:あっちの人はウソを百ぺん言っている。こっちは真実を十ぺん言い返し、世論調査の支持がなくなれば、自民党が廃案を選ぶ。もし廃案を選ばずに、世襲議員たちの一種の興奮でどっと押し切ったら、悪いことだとちゃんと指摘しておく。米軍が自衛隊を自分たちの二軍として使った時、自衛隊は一度ひどい目にあわざるをえない。

小村田:憲法違反の指摘に対する世論の反響は?

長谷部:今回、見知らぬ方から手紙をいただくことが多くて。ふだんは「おまえの言うことはけしからん」と書いてあるんですけど、今回に限っては「もっと頑張れ」というのが大部分です。

小村田:長谷部先生は、安保法制を推進する外務官僚は自衛隊に入れと発言したことがありますね。

長谷部:考えるべきことだと思っています。しょせん戦争に行くのは他人だと思うと、安易な考えになる。自分も行くかもしれないとなった時に、初めて本気で考える。外務省に考えさせるための手段は入隊を全員に義務づけることだと思う。

小村田:集団的自衛権の限定容認を「合憲」という憲法学者もいる、と政府側は言っていますが。

長谷部:2、3%でしょうね。

小林:すごく粗い議論で「おバカ」と思う(笑)。ちゃんと「お」をつけておきますけど。国際法上もっている権利でも、憲法上は許されないということは、いくらでもある。

長谷部:アイスクリームを食べる権利は誰にでもあります。だけど、健康のことを考えて食べないようにしています、というのは全然おかしくない。外務省はイラクがクウェート侵攻した湾岸戦争のとき、カネだけ出してクウェートに感謝されなかった、という。悪いのはどっちかといえば、感謝しないほうですよね。なぜ感謝されなかったほうがドギマギして態度を改めなければいけないのか。それに感謝されたいから集団的自衛権を行使すると言っても、誰も感謝しませんよ。普通のモノの考えができなくなっている。

小村田:南シナ海での中国の海洋進出に対応するという見方もあります。

長谷部:その前提は南シナ海で米国が中国と戦うということですか? 確率は低いですね。

小林:日本にとって何より大事なのは専守防衛です。

小村田:尖閣諸島の問題はどうでしょうか。

長谷部:あんな小島のために米軍が動くと本気で思っているんですかね。

小林:尖閣で中国が変な雰囲気をつくっているのは迷惑ですけど、対応は法律の整備で十分です。個別的自衛権の範囲内で、戸締まりをきちんとする。

長谷部:個別的自衛権の問題です。だいたい尖閣に上陸しても、守りきれませんよ。上陸したほうが負け。心配する必要はない。

週刊朝日 2015年6月26日号より抜粋