坪内:出版社って採用人数が少ないから、コネがきかないよね。作家の娘とか息子は多いんだけど。

林:有名な話ですが、坪内さんは文藝春秋を受けて落ちたんですよね。坪内さんを落とすなんて、見る目ないですね。

坪内:1次の筆記試験で落ちちゃったからね(笑)。僕、漢字読むのは得意だけど、当時は書けなかったの。たとえば「井上ひさしの直木賞受賞作品名を書きなさい」とかいう問題で、答えは『手鎖心中』でしょう。「鎖」が書けなくて(笑)。

林:同期で受かった人を見て「こんなやつが通ってるのか。ふざけるな」という気持ちにならないですか。

坪内:僕が受けた年は白石一文とかが入ったの。白石ブラザーズは双子で2人とも作家じゃない。2人とも文春の最終試験まで残って、お兄さんが入社したんだけど、でもそのあと直木賞作家になって辞めちゃうんだから、俺を採っといたほうがよかったんじゃないかと(笑)。

林:新潮社とか講談社は受けなかったんですか。

坪内:受けなかった。文春がいちばん肌に合うと思ったのね。

週刊朝日  2015年6月19日号より抜粋