“布石”はすでに打たれている。7月には、米豪合同の太平洋地域最大の軍事演習「タリスマン・セイバー」に、陸上自衛隊が初参加する。軍事ジャーナリストの神浦元彰氏は言う。

「今回は陸自の離島防衛部隊40人の参加のみですが、今後はイージス艦や今年配備された事実上のヘリ空母である護衛艦『いずも』も参加させる可能性がある。そもそも『いずも』の配備は、南シナ海で対潜ヘリを運用することを想定しているとしか思えない。今後、南シナ海が活動範囲になることは、自衛隊関係者の間ではもはや常識です」

 実際に、今年1月には米海軍のロバート・トーマス第7艦隊司令官がロイターの記者に、「将来的に自衛隊が南シナ海で活動することは理にかなっている」と、自衛隊の協力拡大に期待を寄せる発言もしている。

「偶発戦争危機」はもはやひとごとではない。例えば、こんな事態も想定できる。

 海上自衛隊のイージス艦が南シナ海で警戒監視活動を展開中、中国海軍の艦艇とフィリピン海軍の艦艇が小競り合いに。「英雄主義」に駆られた中国海軍の艦長の独断で、フィリピン艦艇を撃沈。中国政府は「フィリピン側の挑発に非がある」と責めたて、好戦的なメッセージを発表した。

 情報が錯綜する中、米海軍の輸送艦が衝突現場近くを航行。そこに中国海軍の潜水艦が魚雷の射程内まで異常接近してきた。その一瞬を海自の対潜ヘリが発見した──。

 そのとき何が起きるのか。

「戦場では、撃たれる前に撃つしかない。これが日本が集団的自衛権を行使できる『存立危機事態』にあたるのかなどと、政府の判断を待つ時間はない。切迫度によっては、米艦を守るために、自衛隊の対潜ヘリが短魚雷を投下し、中国の潜水艦を攻撃することもあり得る」(前出の神浦氏)

 こうして、自衛隊が初めて戦闘する事態が、なし崩し的に発生してしまう可能性がある。憲法9条など関係ない。それは消極的であれ、日本が再び戦争にかかわることを意味する。

週刊朝日 2015年6月19日号より抜粋