格差社会が進む日本。政府も格差是正に動いているが、その方法がおかしいと指摘するのは、“伝説のディーラー”藤巻健史氏だ。

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 モルガン銀行勤務時代、ニュージーランドのヘッジファンドオーナーの英国の別荘を訪問した際、建造中のヨットの設計図を見せてもらった。別荘には、なんと、ヘリポートと潜水艦の収納庫もついていた。別荘のすごさに驚いている場合ではなかった。さらに息子と娘の成人祝いにおのおのジェット機を買い与えた話を聞いてズッこけた。

 また英国人のファンドマネジャーが「趣味は農場経営だ」と言うので「家庭菜園に毛が生えたものか」と思っていたら「南アフリカに4千人の従業員を雇ってやっている。その農場の作物の生育状況を1日30分聞くのが私のリラックスタイムだ」という。

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 私が見ている限り、外国にいるような大金持ちなど日本にはいない。それなのに格差是正と称して小金持ちを引きずり下ろそうとしているのが日本社会だ。本来、格差是正を言うなら、低所得者層を引き上げることに焦点を置くべきだ。なぜ他国では法人税率の引き下げに対して、日本ほど反対が起きないのか? なぜ日本だけが相続税増税に走り他国は相続税を軽減ないしは廃止する方向に向かっているのか?

 外国人にいろいろ聞いてみたら、どうも法人税や相続税は二重課税だからのようだ。二重課税だと「合成の誤謬(ごびゅう)」が起きてしまう。格差是正の名目でただでさえ累進性のきつい所得税をよりきつくし、相続税も重税化した結果、日本は、小金持ちにとって並外れて厳しい国になってしまった。

 
 所得税+住民税の最高税率55%、相続税の最高税率55%だから、ある一定以上の収入を稼ぐと、さらに100万円を稼いでも子供に20万2500円しか残せない(100万円×45%×45%)。これでは、その段階に達した時点で働くのをやめてしまうだろう。そこから失敗して大損の可能性がある一方、成功してもリターンが少ない「ハイリスク・ローリターン」の世界に突入するなら当然の判断だ。

 これでは産業の新陳代謝を促し、将来の労働場所を提供してくれるベンチャーは育たない。経営者がすぐ降りてしまうからだ。

 ところで、4月13日の参議院決算委員会で国税庁に聞いたところ、勤労者の平均年収は414万円だが、年収400万円の人の手取り額(税金と社会保障費を引いた額)は、配偶者と高校生の子供2人がいる家庭では、330万円だそうだ。

 次に厚労省に「配偶者と高校生の子供2人がいる50歳代の生活保護者への給付額」を聞いた。東京都三鷹市では340万円だという。税金や社会保障費は払っていないだろうから、勤労者の平均と同レベルの手取り額だ。さらには、弱者救済ということで、生活保護家庭は医療費、介護費用、都営地下鉄、バスなどが無料だそうだ。勤労者は当然これらのコストを自分で払う。生活保護者のほうが平均的サラリーマンより実収入が多いことになる。

 健康を害して働けない人ならともかく、働く能力があるのに職が見つからないという理由で働かない人が平均的勤労者より手取り額が多いのは、明らかに間違いだ。自衛隊の定員不足や介護要員の不足のニュースを聞くたびに疑問に思う。これでは誰も働かなくなる。各役所が「弱者救済、格差是正」を金科玉条にバラバラに優遇措置をつけるせいでは?

週刊朝日 2015年6月12日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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