ひとつは、京大病院時代から田中氏の右腕として多くの移植手術に携わり、KIFMEC開院時から副院長を務めた女医・Y医師(38)の存在だ。

「Y医師は京大時代から田中先生に学び、国内外でともに手術を手掛けてきました。移植は手術を多く経験することで腕が磨かれる世界です。田中先生はY医師を優先して手術の担当をさせたり、Y医師を批判したほかの医師に不利な人事をしたりしたとも言われ、田中先生に不満を持っていた人は多いようです。それで田中先生のもとに医師が集まらなかったのではないでしょうか」(大学関係者)

 京大病院時代に田中院長が指導に出向いていた他の大学病院でも、「Y先生という女性の医師がいつも田中先生について京都から来ていたと聞いたことがある」(別の大学関係者)。

 本誌は田中院長らへ取材を申し込んだが、取材拒否との回答だった。また、Y医師は、「4月末で退職」(KIFMEC広報)している。専門の医師が不足しているという研究会の指摘に対して田中院長は「周囲の病院と連携している」と会見などで反論していたが、それでも高い壁がありそうだ。

 そのわけは、今回問題となった7人の患者のうち4人がインドネシア人だったことにヒントがある。KIFMECは「国際貢献」として海外からの患者を受け入れているが、営利目的の「移植ツーリズム」につながるとして、地元医師会などから大きな反発があった。

「KIFMECが2010年に設立計画を発表したとき、移植患者向けに100床を用意するとしていました。現在国内の生体肝移植は年間約400例です。ひとつの病院で100床というのは多すぎ、海外からの患者を想定しています。そこで市の審議会で話し合い、現在の20床ということになりました」(神戸市医師会長)

 この問題で見逃せないのが、KIFMECのスポンサーの存在だ。病院建設にあたり必要な費用の4割を出資した三井物産は「当初、(同社の関連の)シンガポールの生体肝移植専門クリニックからKIFMECに患者を紹介する計画はあった」(広報部)。実際は行われていないというが、営利目的でシンガポールの富豪患者を受け入れるのではないか、と懸念され、地元医師会から総スカンを食ったというのだ。

(本誌・長倉克枝、西岡千史、古田真梨子)

週刊朝日 2015年6月12日号より抜粋