記者会見する“世界的権威”の田中院長。「早期に再開する」方針だという (c)朝日新聞社 @@写禁
記者会見する“世界的権威”の田中院長。「早期に再開する」方針だという (c)朝日新聞社 @@写禁

 生体肝移植の世界的権威である田中紘一院長(73)が鳴り物入りで開院した高度専門医療機関、神戸国際フロンティアメディカルセンター(KIFMEC)で、移植手術を受けた患者が相次いで亡くなる問題が発覚した。その裏には医学界の魑魅魍魎(ちみもうりょう)の人間関係があった。

「僕らはみんなあの人の弟子だけれど、今僕らの腕はあの人に劣らない。あの人はもう関係ないんだ。日本の生体肝移植は、今あの人を除いて動いている。あの人がいるから日本の移植医療がだめになる」

 田中院長のもとで学び、生体肝移植を多く手がけてきたある移植医は、吐き捨てるようにこう言った。

 あの人とは、生体肝移植を専門とするKIFMECの田中院長のことだ。生体肝移植数国内一を誇る京都大学病院で、生体肝移植の黎明期を切り開いてきた。これまでに国内外で約2千例の生体肝移植を手がけ、他の医師は断るような条件が悪い患者にも移植手術を行う、その手術の腕は“神の手”とも称される。

 ところが、昨年11月設立のKIFMECで、翌月から今年3月までに生体肝移植手術を受けた患者7人中4人が手術後1カ月以内に亡くなった。国内の生体肝移植手術1年後の生存率85%と比べて著しく低い。

 肝移植の専門医からなる日本肝移植研究会は、「亡くなった4人中3人は救えた可能性がある」「詳細な検査をするべきだった」などとして、医師の確保や、設備や体制の整備など、組織の抜本的な改善や、移植の適応を評価する委員会の改善を求める報告をまとめ、4月下旬にKIFMECへ送った。研究会には、田中院長の教え子たちが集まるが、冒頭の移植医をはじめ、医師らが田中院長へ向ける眼差しは厳しい。世界的権威で多くの教え子を持つ田中院長のもとで、医師の不足が指摘されるなど“異常事態”になったのはなぜなのだろうか?

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