作家の室井佑月氏は、グローバル化が進むにつれ日本の貧困は拡大し、暗い未来が待っているとこう危惧する。

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 夏休みはどこにも行かないと決めた。これから子どもの教育費にいくらかかるかわからない。子どもの教育費は削りたくないので、削るなら行楽費だ。

 子どものいない友人も、どこへも行かないみたいだ。その友人は独り者で、年に2回の海外旅行だけを楽しみにしているような女だ。円安で、以前ほど海外へ行っても楽しめないのが理由らしい。

 こりゃあ、個人消費も落ち込むわね。あたしたちが日々使う食料は、円安で材料が値上がりし高くなっているし。

 物価上昇分を差し引いた実質賃金指数は、23カ月続けて前年割れ。これで再来年の春からまた消費税が上がったら悪夢だな。

 さて、ここで疑問が。「グローバル」という言葉が世の中に浸透し、この国もそちらへ進んでいくわけだが、そう考えたとき、円安とは、この国に住んでいるうちらの個人財産の目減りも意味するんじゃないか。

 世界で考えれば、なんにもしなくても、円安で財産は減ってるわけ。

 金だけじゃない。人間の価値などもそうなのかも。世界と競争するため、人材不足を解消するため、移民を受け入れるという話がある。ぶっちゃけ、競争する企業のため、低賃金で働いてくれそうな人を入れたいわけでしょう。

 
 この国はすでに格差社会だ。5月4日付の東京新聞で、NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の理事長の大西連さんがはっきりこういっていた。

「(相対的貧困)その比率は上がり続け、今は約16%。およそ六人に一人が貧困状態です」

 この国の貧困者は、移民の方々の給与水準に合わされるに違いない。そして、その数は大西さんがいうように増えつづける。

 アメリカではグリーンカードをもつ移民が市民権取得のために入隊することが多いと聞いた。

 この国の自衛隊も、これからアメリカに追従し、世界中でドンパチできるようにするんでしょ。人材不足となれば永住権を餌に、移民の入隊をほどこすのかも。そして、この国の貧困者もそれにつづく。

 貧困から抜け出せないこの国の若者は、移民の方々と働きながら、「日本人である」その一点だけが心の拠り所となりそうだ。

「日本人だから彼らよりは上」、そういう考え方ね。つまり、差別だ。

 そして、そういう偏狭な考え方に固執するあまり、ほんとうの悪を見ようとしない。本来なら、自分を落とし込んだ、社会の不平等なルールを作った人間に怒りを向けるべきなのに。そういうイヤ~な感じの未来に、この国は動き出しているような──。

 とここまで書いて顔を上げテレビを見たら、中央アジアのタジキスタンという国で、貧困女性が売られていく、というルポをやっていた(「日テレNEWS24」)。

 あたしは最悪の場合、将来、この国でもそんな悲しいことが起こる気がする。

週刊朝日  2015年6月5日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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