フランス原産のピノ・ノワールというブドウは芳しい香りで多くの人を虜にする。

 北海道余市町で「ドメーヌ タカヒコ」を立ち上げた曽我貴彦さんもその一人だ。曽我さんはこの品種の魅力を、「料亭の出汁のようにうまみがあり、しかも繊細で複雑」なことだと考えている。

「日本で造るのなら、出汁をきかせた和食とも相性のよいワインを造りたい」と、ピノ・ノワールだけを育てようと決めた。

 曽我さんは、栽培に適した涼しく水はけの良い丘陵地を探して、全国50カ所余りの土地を訪ねた。2009年、いちばん条件の近かった余市町に移り住み、苗を育て始めた。

 苦節5年。昨年ようやく、「ナナツモリ ピノ・ノワール」の発売にこぎつけた。

 ワインの色合いは薄いが、味わいは深く独特のうまみを持つ。香りも豊かで余韻も長い。きのこ類、今の季節ならば山うどや筍との相性もいい。少し醤油をたらして出汁で炊いたものと合わせても、実においしい。

(監修・文/鹿取みゆき)

週刊朝日 2015年5月29日号