吉野さんは30代半ばで告知され、再発と転移を繰り返し、近々予定されている手術は19回目だ。昨秋の16回目は脳や舌などに転移したがんを摘出。8カ所を切除するのに脳外科・頭頸部外科・整形外科などの医師が携わったという。

 過酷な闘病生活を送りながらも、ブラインドダンス指導やサルコーマセンター設立、「いのちの授業」と超多忙を極める吉野さんのエネルギー源は何なのか。

「ダンサーもがん患者も私の要素の一部。がんを患ったことは決してうれしくはないが、だからこそ経験できたことがあり、出会った人たちがいる。そうした素晴らしい点に目を向けて生きています」(吉野さん)

 肉腫は再発と転移を繰り返す、珍しいがんだ。このため吉野さんは「『再発』という言葉の受け止め方は、私と他のサバイバーとは違うかもしれない」と前置きした上で続ける。

「再発や転移がわかるたびに、手術や放射線治療を受けている。今までできていたことがどんどんできなくなっていくのは悔しく、人前では絶対見せないけど家で泣くこともある。ただ、泣いても元の状態には戻らないから。私の場合は一度泣いたら、それでおしまい。マイナスの気持ちを長引かせないんです」

 できないことを挙げ連ねて嘆くのではなく、できることを見つけて精いっぱい打ち込む。ブラインドダンス指導で視覚障がい者に「生きがいになっている」「人生が百八十度変わった」と言われるだけで胸がいっぱいになる。

週刊朝日 2015年5月29日号より抜粋