「廃炉費用は日本では1基あたり550億~700億円程度と見積もっていますが、廃炉を先に進めたドイツやイギリスでは、炉型にもよりますが2500億~3500億円と試算しています。日本はまだ廃炉の経験が浅いので、まだ全体像がわからず、今の見積もりでは資金不足になりかねません」

 日本は今後、すでに廃炉が決定している8基に加え、福島第一原発の1~6号機も含めた計14基が同時に廃炉作業を進める“廃炉ラッシュ時代”を迎える。資金不足に陥れば、電気料金の値上げや国費の投入という形で、国民負担が高まることになりかねない。

 また、廃炉ラッシュで技術者の不足も懸念される。原子力デコミッショニング研究会の石川迪夫(みちお)会長は言う。

「溶融燃料のある福島第一原発を除けば、経験豊富な技術者が作業に参加すれば、廃炉は難しい工事ではありません。それが人手不足で未熟な技術者が作業をするようになると、工事現場ですから思わぬ事故が起こる可能性もある」

 処分場と技術者の不足という喫緊の課題に、どう対応すればいいのか。石川氏は続ける。

「工期を短縮することです。そうすれば廃炉の専門家が多くの作業を担うことができます。技術の蓄積も進み、費用も下がるでしょう。そのためには二つのことが必要です。一つは、現場の裁量を大きくすること。現在は、作業の品質管理を重んじるあまり、マニュアルにないことはできない。危険度の低い作業は現場の創意工夫に任せたほうが、技術の発展にもつながります。もう一つは、廃棄物処分のルール作りに国民自身が参画することです」

 原発を推進するにしろ、反対するにしろ、目の前にある老朽化した原発の廃炉は避けては通れぬ道だ。前出の大島教授も言う。

「処分場を誰が、どの場所で、どの程度受け入れるのか。その同意を住民の意思決定という形で得ることが大切です。大事なのはそこに至るまでの過程で、ドイツでは住民との合意を得るための専門家もいます。日本は、すぐにお金で解決しようとする。それでは問題の解決にはつながらない」

週刊朝日 2015年5月22日号より抜粋