川内原発運転差し止めの仮処分申請が却下され、いよいよ原発再稼働が現実味を帯びてきた。だが、福島第一原発周辺では、いまだつぶれた家屋が道路をふさぎ、高線量の廃棄物を受け入れる中間貯蔵施設をめぐり、地権者との溝も深まっている。30年中間貯蔵施設地権者会事務局長の門馬好春氏は、国の対応に憤りを覚えるという。

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 我々は中間貯蔵施設を受け入れ、犠牲になる覚悟はあります。ところが、これまでの環境省のあまりに不誠実な対応と十分な説明をせずに見切り発車をする進め方に強い不信感を感じるようになっています。このままでは交渉は前に進みません。

 1月から4回、交渉を行ったのですが、最初の交渉で環境省の担当者が「私たちの話を理解しない地権者会が中間貯蔵施設の立ち上げを遅らせている」という趣旨の発言をしてきました。これにはこちらも抗議文を出し、謝罪していただきました。4月には人事異動で担当者が代わりましたが、1月から担当してきた前任者からは連絡もなく、新担当者からの連絡は4月半ばになりました。こうした交渉以前の部分で信頼が失われています。

 契約の内容についても疑問点が数多くあります。環境省は我々の土地を借地する場合、地代をゼロと提示してきました。その代わり「地上権」を設定して地価の7割を支払うというのです。土地の取引慣行を無視していますので、算定の根拠がわかりません。説明を求めても「不動産鑑定士の知見を生かしてつくった」と言うばかりです。

 3回目の交渉では契約書案をその場で見せるだけで写しもいただけず、4回目の交渉では一度は渡してくれましたが後で「返せ」と言ってきました。これでは十分に検討することもできませんので、対等な交渉とは思えません。売買の場合、土地価格は事故前の半額程度で差額は福島県が補填するとのことですが、なぜ国が全額でないのかの説明もありません。

 30年後に土地を返す手段や原状回復をどうするかなども説明がなく、返還に際して両者で協議して決めるという。返すときに相談するのでは、本当に土地を返すつもりがあるのか疑わしい。福島県外の最終処分場化に向けた30年間の具体的な工程表を出すよう求めていますが、いつまでに作成し示すかもわからないと言います。このままずるずる最終処分場にされるのではないかと懸念しています。

 そもそも、地権者が対等に環境省と交渉ができる条件が整備されていません。お年寄りの地権者の住む仮設住宅をいきなり環境省の職員が複数人で訪ね、国有地化を誘導するような交渉をしているとも聞きます。地権者会に入っていない方もいらっしゃいますが、個人ではどう対応していいかわからないでしょう。町の集会場などで弁護士などの専門家が同席して交渉ができる仕組みをつくるべきですし、その費用は国からの交付金でまかなうべきだと思います。 

 私たちの疑問点が解消されないうちは、交渉は前に進まない。環境省には今後もさらなる説明を求めていきたいと思います。

(構成 本誌・小泉耕平)

週刊朝日 2015年5月8-15日号