勘三郎、團十郎、三津五郎と、最も脂が乗った大名跡を続けざまに失った歌舞伎界。これからが楽しみな中堅若手は誰なのか?

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「平成中村座」が3年ぶりに戻ってきた。

 東京・浅草寺本堂の裏手すぐ、5月頭まで仮設テントの芝居小屋が立っている。江戸時代の芝居小屋を再現した平成中村座は、2012年12月に逝った十八代目中村勘三郎が00年に始めた。桟敷を含む836の客席はほぼ満杯、女性客が9割方を占める。開幕とともにかけ声が飛んだ。

「待ってました!」

 どれほど多くの人に平成中村座が待たれていたか、勘三郎が愛されていたか、改めて思い知らされる。

 その勘三郎に続き、13年2月に十二代目市川團十郎、そして今年2月には十代目坂東三津五郎が亡くなった。歌舞伎界を牽引していくはずだった円熟期の3人の不在は、今後の歌舞伎界にどんな影響を与えるのか。

 演劇評論家の長谷部浩さんはこう話す。

「亡くなった3人は、昭和歌舞伎を支えていた大立者、具体的に言えば十七代目の勘三郎、二代目尾上松緑、六代目中村歌右衛門、七代目尾上梅幸から直接教わった最後の世代。その3人がいなくなってしまった。中堅の花形たちがぜひとも教わりたかった3人が抜けてしまったことで、芸の伝承がうまくいかなくなる恐れがある」

 中堅たちとは、例えば、今回の平成中村座の出演者では勘三郎の義弟中村橋之助(49)、長男の中村勘九郎(33)、次男中村七之助(31)、従兄弟の長男の中村獅童(42)らだ。ほかにも、松本幸四郎の長男市川染五郎(42)、日本舞踊・藤間流勘右衛門派の家元でもある尾上松緑(40)、團十郎の長男市川海老蔵(37)、七代目尾上菊五郎の長男尾上菊之助(37)、現猿翁から3年前に名前を継いだ市川猿之助(39)、上方歌舞伎の片岡愛之助(43)……彼ら40代、30代の中堅花形にかかる責任はおのずと重くなる。長谷部さんはこうも言う。

「亡くなった3人が元気だったら主役を取っていたでしょう。中堅にはある意味、チャンスが急に巡ってきたとも言える。芯になる立役(男役)が不在になったために、特に同じ立役の橋之助、染五郎に機会が増えた。その下の3人(松緑、海老蔵、菊之助)にも増えています」

 今回の平成中村座では、橋之助が圧倒的な存在感を見せる。「立役の身としては、とりわけ楽しみ」と語っていた「勧進帳」の弁慶は、堂々とした立役ぶりだ。

 演劇評論家の渡辺保さんが言う。

「橋之助は時代物も世話物もできる強みをもつ。今後の時代を背負う人。これからが大事になってくる」

週刊朝日 2015年5月8-15日号