“伝説のディーラー”と呼ばれモルガン銀行東京支店長などを務めた藤巻健史氏は、最も大きな問題となっている「世代間格差」を政府は理解していないと指摘する

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 日本では格差是正という言葉を金科玉条として政策が打たれている。本来は低所得者層のレベルアップによって格差是正を図らなくてはならないのに、小金持ちを引きずり下ろす形で是正を図ろうとしている。

 所得税や相続税の最高税率引き上げなどがそのいい例で、税収など微増にしかならないのに、世間受けを狙って行われている。欧米、中国、ロシア、中近東にいるような大金持ちなど、日本にはほとんどいないにもかかわらずだ。

 これでは誰も働かなくなる。重要なのはセーフティーネットの確立と、その上での機会平等社会の確立だ。結果平等を目指しているのなら典型的な社会主義国家だ。その未来は知れている。

 格差是正!と多くの人が叫ぶが、最も大きな問題の「世代間格差」には冷淡だ。巨額な赤字予算が簡単に国会を通ってしまう。本年度予算では、「世代間格差是正のために子や孫の結婚、出産、子育てに使う資金を贈与した際の非課税制度を導入した」と政府は言うが、世代間格差の意味がわかっていない。

 社会保障費は財政学上、所得の再分配と考えられているが、現在の社会保障費の総額は、(国債費や地方交付税に占める民生費などを考えると)毎年の借金額にほぼ等しい。

 ということは、我々は次世代から再分配を受けていることになる。「我々世代はお金をもらう人、次世代はお金をあげる人」ではあまりに次世代がかわいそうだ。次世代が、巨額借金を返済するためだけに働く、超高額の税金を払うためだけに生きるのは絶対に避けなければならない。累積赤字を減らしてこそ、一番の格差問題は解消される。

週刊朝日 2015年5月8-15日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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