9秒台の期待を裏切り、2位敗退となった桐生選手 (c)朝日新聞社 @@写禁
9秒台の期待を裏切り、2位敗退となった桐生選手 (c)朝日新聞社 @@写禁

「100メートルレースが終わった瞬間、あちこちの部署から、『あ~』という長いため息が聞こえてきました」

 こう語ったのは、とあるスポーツ紙の野球担当デスク。この新聞社では、4月19日に広島で行われた陸上・織田記念国際の男子100メートルで、桐生祥秀(よしひで)選手(19)が10秒を切った場合を想定し、号外を出す態勢を整えてレースを見守っていたという。しかし桐生は10秒40という平凡なタイムで2位タイに終わった。

 一昨年の同大会で10秒01という日本人歴代2位のタイムを出したのが、まだ高校生だった桐生。以来、同社では彼が走るレースで何度も号外態勢を組んできた。

「何度も空振ってますから、桐生の9秒台は『出るぞ、出るぞ』と言われてなかなか出ないお化けみたいでね(笑)。先日、桐生が追い風参考記録ながら9秒87を出した米テキサスのレースはノーマークだったので、ふんどしを締め直した感じですが……。出るんですかね、9秒台?」(同デスク)

 それはまさに、多くの日本人が知りたいこと。ベテランの陸上担当記者に聞いてみた。

「先日の9秒87は追い風がなかったらどれくらいのタイムになるのか……いろいろな換算式があるのですが、おおむね9秒96か97ぐらいだと言われます。つまり、桐生に10秒を切る力があるのは間違いない。ただ、いつも9秒台を期待するのは酷。準備を整え、かつ、幾つもの条件が重ならないといけない。その意味で、19日のレースは、向かい風でしかも雨。かなり厳しい条件だった」

 今回のレースで気になったのは、同じ条件で走りながら1位にすらなれなかったこと。テキサスではタイムとは別に、自己ベスト9秒88でロンドン五輪5位のベイリーを抑えて優勝した。国内で負けてて大丈夫?

 ベテラン五輪担当記者は、「流れが悪かった」と言う。

「前日の200メートルで負けて、大丈夫かよ?となった。本人も『長いなと思った』と話していた。100メートルはトップスピードになってから、それをいかに保つかで、今後の桐生の課題もそこ。だから200を、そのトレーニングの一環として走るのはわかります。ただ、肝心の100のレースに悪い流れで臨むことになったら元も子もない」

 桐生の次のレースは5月2、3日にバハマで行われる世界リレーの予定。注目したい。

(岸本貞司)

週刊朝日 2015年5月8‐15日号