氷河が削った急峻な谷間の道を行く。山頂部に氷河が残る山々の岩肌には、雨が降ると幾筋もの滝が出現する(撮影/写真部・馬場岳人)
氷河が削った急峻な谷間の道を行く。山頂部に氷河が残る山々の岩肌には、雨が降ると幾筋もの滝が出現する(撮影/写真部・馬場岳人)
展望台から360度見渡せる星空を天の川が貫き、南十字星が光る。「宇宙の姿が感覚的にわかるのがすごいでしょう」と小澤さん。眼下に広がるテカポの町の街灯は、低圧ナトリウム灯で灯火規制されている(撮影/写真部・馬場岳人)
展望台から360度見渡せる星空を天の川が貫き、南十字星が光る。「宇宙の姿が感覚的にわかるのがすごいでしょう」と小澤さん。眼下に広がるテカポの町の街灯は、低圧ナトリウム灯で灯火規制されている(撮影/写真部・馬場岳人)

 ニュージーランドには、「世界一の散歩道」と「世界一の星空」があるという。日本から約9千キロも離れた南半球の島国に、雄大な自然の番人として生きる日本人たちがいる。

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■世界一の散歩道 ミルフォードトラック

「まるで、ジュラシック・パークのようね」

 アメリカから来たカレン・デイヴィスさん(67)は、森を歩きながらつぶやいた。

 北島と南島、二つの主要な島からなるニュージーランド。その南島の南端に、氷河がつくりだした絶景を4泊5日かけて歩く「ミルフォードトラック」がある。「世界で一番美しい散歩道」と呼ばれ、自然保護省によって厳格に管理された原生林をゆく54キロの道のりは、世界中のトレッカーの憧れの的だ。

 カレンさんにとっても、ここを訪れるのは長年の夢だった。

「ニュージーランドのレインフォレストを知ったのは20年以上前。ずっと来てみたかったの」

 トラック沿いには、屋久島の約2倍という降雨量が育むさまざまな種類の苔が生える。幹を覆うゴブリン(悪鬼)モス。傘のようなアンブレラモス。枝から垂れるオールド・マンズ・ビアード(おじいさんの顎ひげ)……。充満する緑に、鳥たちの声がこだまする、まさに神秘の森だ。

 ミルフォードトラックのガイドとして働く鈴木利岳さん(26)は、この自然に魅了され、移り住んだ。カナダの大学で環境について学び、釣りやカヌーを愛する根っからの自然好きだ。

「若いときからずっとここを歩きたかったという89歳のニュージーランド人男性を案内したことがあります。僕が荷物を持ったりして、なんとか5日間歩き通した。ゴール地点で彼は、『これで死ぬ準備ができた』と涙を流しました。彼の夢がかなった瞬間でした」

 スコットランド人探検家クィンティン・マッキノンがこの道を開いてから1世紀あまり。当時は死を覚悟するほどの大冒険だったが、今では、子どもから老人までもが歩けるようになった。「世界一美しい散歩道」は、大切に守られながら、世界中の人々を受け入れている。

※ミルフォードトラックのガイド付きツアーを主催しているUltimate Hikesは、日本人スタッフやガイドが常駐している。3食付きで食料を持ち歩かなくてすみ、体調のケアもしてくれるので安心だ。
【Ultimate Hikes】 https://www.ultimatehikes.co.nz/ja

■世界一の星空 テカポ

 テカポは、南島の中央、コバルトブルーの湖のほとりにたたずむ小さな村だ。ここに、「世界一の星空」があるという。

 村で星空ツアーを主催している小澤英之さん(57)は、「晴天率が高く、乾燥して空気が澄み、近くに大きな町の明かりもない。自分が外国人だからこそ、この星空の貴重さがわかります」と言う。現在、町の人々とともに、この星空を世界遺産に登録する運動を展開中だ。

「星空ツアーに参加した年配の方は、『50年前に見た星空だなあ』なんておっしゃったりします。人生を投影するんですね」

 悠久の星空にはそんな力がある。ツアーを始めたばかりの頃は、地元では懐疑的に受け取られたというが、今では、日本やヨーロッパだけでなく、国内からの参加者も増えている。

 晴天の夜、テカポの上空には、地平まで満天の星が広がった。その美しさに、鳥肌が立った。

※マウントジョン天文台への星空観察ツアーを行っているEarth&Sky。レーザーポインタで星空を示しながら解説してくれる。
【Earth&Sky】 http://www.earthandskynz.com/window-to-the-universe/ja/

協力=ニュージーランド航空
http://www.airnewzealand.jp/

週刊朝日 2015年5月1日号