看護を学び、看護師資格の取得をめざす看護系学部は全国で急激に増え続けている。今春だけでも鳥取看護大が新設され、松蔭大、神奈川工科大、新潟青陵大、日本福祉大、同志社女子大などが看護学部を新設するなど、看護系の新設は15大学に及んだ。

 1991年度以後の看護系大学の数と定員数の推移は、きれいな右肩上がりになっている。看護系学部をもつ国内の大学は、91年度にはわずか11校、看護系学部の定員は計558人に過ぎなかった。それが翌92年に看護師の人材確保を促進する法律ができ、「看護系大学の整備・充実を一層推進していく必要がある」(文部科学省)という方針が掲げられて急増。2006年度に定員1万人を超え、今春ついに定員2万人を突破。大学数は241校にもなった。25年で大学数は約22倍、定員は実に約37倍にも増えている。

 こんなハイペースで大学や定員が増えても、看護師をめざす受験生は急増し、志願倍率は同志社女子大で11.4倍、奈良学園大で6倍、北里大で5倍などと高い人気だ。

 看護系大学が人気を集める理由は何だろうか。駿台予備学校進学情報センターの石原賢一・センター長はこう話す。

「受験生にとって、看護師という仕事は身近で、将来こんなふうに人の役に立てるというのがわかりやすい。いま、さまざまな名前の学部ができていますが、多くは学生にとって『今のこの勉強が将来何につながるのか』という学業と就職とのつながりが見えづらい状態にあります。とりあえず大学に入るものの、未来図を描けずにいる学生が多い中で、看護学部は将来像が非常にわかりやすい学部だけに、人気があるのです」

 日本看護連盟会長で、東京医療保健大の草間朋子・副学長は、看護師の就職先の間口の広さを理由に挙げる。

 
「看護師は各地で不足していて、景気の良しあしにも左右されない職種で、就職先に困りません。さらに、看護師資格は生涯にわたって持っていられるため、例えば県外に引っ越すような事情があったとしても、再就職先を見つけやすいのです」

 看護師の勤務先は、大病院だけでなく、クリニックや小さな診療所もあるし、これからますます高齢化するのに伴って老人介護施設での看護や訪問看護など、幅広い需要が見込める。厚生労働省の推計では、団塊世代の全ての人が75歳を迎える25年には、現在より50万人多い200万人の看護職が必要とされている。つまり、就職難は考えにくいうえ、定員増という「広き門」があるのだから、受験生の人気が高まるのも無理はない。

「看護学部を新設する大学がどんどん増え、相対的に枠が大きくなり、受験生も狙いやすくなっています」(前出の石原センター長)

 大学が看護学部を設置する狙いもさまざまだ。今春から看護学部を新設した大学の一つが、神奈川工科大。河野隆二・常務理事に「なぜ、工科大学で?」と聞いた。

「神奈川県は全国で一、二を争うほどの看護師不足で、地域での養成が必要だと感じました。看護の勉強は理系の知識が必要で、情報処理技術や機器の理解も大切。理系の大学環境は、看護学部の設置に適していると考えました」

 さらに、工学部を超えた今後の大学の展開という意図もあるという。

「工学系は、国立大など競合が多い学部です。これまでも応用バイオ科学科や、管理栄養士の資格が取れる栄養生命科学科のような、生命・健康を学ぶところを整備して、工学だけでない大学づくりをめざしてきました。教員数の多い看護学部は多くの経費もかかりますが、今後はこの分野を一つの柱としていく考えです」

週刊朝日 2015年5月1日号より抜粋