「食道発声法が始まったのは1800年代と古く、意識的に空気を食道や胃に送り込み、ゲップをする要領で声とともに出す。コツが必要で、最初はお茶とともに空気をのみ、出す練習から始めます」(松山さん)

 道具を使わないために両手があき、身振り手振りを交えて説明できるほか、電話しながらメモも取れる。

 ただ、声帯の代わりに震わせるのどの粘膜は細かな振動ができないため声は低くなり、大声も出しにくい。また胃や食道に入る空気の量が肺に比べて少なく、長いフレーズを一息で話すのは難しい。地道な発声練習が求められるのだ。

「でも、個人差はありますが、上達すれば普通にコミュニケーションがとれるまでになります。さらに、間のとり方や声の強弱などを工夫することで、より自然に話せるようにもなるんです」(同会副会長の秋元洋一さん)

 銀鈴会が開催する発声教室は、初級者から上級者までクラスに分かれ、練習する。上級者は健常者と変わらない会話を楽しんでいた。歌も歌えるようになる。

 では、どんな人が上達しやすいのか。松山さんによると病気の種類や手術の内容、年齢などでも異なるが、一般的には年齢が若く、のどの粘膜が柔らかい人や音楽やスポーツで声や体の使い方ができている人は好条件だという。

「つんく♂さんは若いし、コツをつかむのは早いと思いますね」(松山さん)

 銀鈴会の教室で教えている男性は、17年前に喉頭がんを患い、食道発声法を習得した。その経験を踏まえ、「いちばん大変なのは空気の入れ方。がんばって、どんどん自己表現してほしいですね」とエールを送る。

 つんく♂さんは母校の新入生に向かって「私も声を失って歩き始めたばかりの1回生。(中略)新しい人生を進んで行きます!」と力強く表明した。自分のブログでも現在、闘病記を執筆していると明かしている。

(本誌取材班=山内リカ、上田耕司、福田雄一/黒田 朔)

週刊朝日 2015年4月24日号