賛否両論となっていた「残業代ゼロ法案」が閣議決定した。数の力でゴリ押しする安倍政権。野党最大の民主党・岡田克也代表(61)は今の経済をどうみているのか。ジャーナリストの田原総一朗氏が切り込んだ。

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田原:経済についてもうかがいたい。岡田さんは衆院予算委で、格差拡大について指摘していましたね。

岡田:残念ながら安倍さんは「許容できないような格差は認められない」というお話でしたが、米国のように1%の人に富が集中する格差と違い、日本は中間層が貧困に陥りつつある。特に母子、父子家庭の相対的貧困率が5割超なのが深刻で、OECDの中でも最悪です。政府の手当てをしっかりする必要がある。

田原:日本は非正規雇用が約4割もいて、非常に多いと言われていますね。

岡田:非正規雇用は過去20年で大幅に増えましたが、身分の不安定さに加えて、生涯賃金が上がらないことが最大の問題です。これは少子化にも直結する話で、やはり所得が少ない人ほど結婚していない割合が高い。結婚しているカップルには平均1.92人くらい子どもがいるので、あまり昔と変わっていない。結婚しない人が増えていることが少子化問題の本質なのです。

田原:なぜ、非正規雇用がこんなに増えてきたのか。

 
岡田:バブル崩壊後の人件費抑制で若者が割を食った面はあると思います。人を育てる、大切にするのが日本的経営の基本だった。それが失われている。いろいろな事故が頻発するのも、現場の力が落ちているからではないでしょうか。

田原:現在3年までとなっている派遣期間の制限を撤廃する派遣法の改正案が国会に提出されましたね。

岡田:これは今国会の大きな争点で、派遣が常態化することは非常に問題です。これ以上さらに非正規を増やしてどうするのか。むしろ日本型経営をもう一度見直して、人を大切にする経営の原点に返るべきです。

田原:安倍首相の支持率の高さは株価に比例しています。第3の矢がこれから経済を成長させるというんですが、これはどうですか。

岡田:第3の矢が大事という考え方は私も同じですが、具体策としてきちんとしたものが出ていません。

田原:年収1千万円以上の人には成果に基づいて給料を払う「残業代ゼロ法案」という話がありますね。

岡田:それには成果がきちんと評価できることが大前提ですが、日本は欧米とは働き方が違い、個人技ではない部分が多いので成果主義は必ずしもなじみません。今でも長時間労働が問題視されているのに、さらに助長しかねない。安倍首相は「岩盤規制」と自分で勝手に定義づけた雇用の問題で成果を出したいのかもしれませんが、少なくとも生産性を高めることになるとは思えません。

(構成 本誌・小泉耕平)

週刊朝日 2015年4月17日号より抜粋

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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