しかし、私はNHKの国際放送が国益にかなった任務を十分に果たしているとは思えません。放送法の中では、NHKは政治や外交と全く独立した中立不偏の立場で番組を編成することになっており、「国益の立場に沿う放送をせよ」とは一切言えません。放送法によって報道の自由が守られているからです。政治家が報道の自由に介入することは、あってはならない。ただ、日本の正しい情報を国外に発信することは喫緊の課題です。誤った情報があれば、迅速に対応していかなければいけません。だからこそ私たちは、「NHKに代わる新型国際放送を創立できないだろうか」と議論をしているのです。

 これまでの日本では、いわゆる「広報」には相当の努力をしてきましたが、「情報戦略」という視点がなかったと言える。いくら真面目に正しい情報を提供しても、それがそのまま正しく認識されるかは単純でない。

 慰安婦問題などは典型的で、今や朝日新聞の誤報などで国際的には誤った認識が定着しています。どれほど国民の名誉と国益が害されているか。たとえば中国のCCTVは完全に政府の広報メディアです。わが国は民主主義国家ならではの情報戦略を構築していく必要があります。放送法により、新型国際放送の創立が難しければ、インターネットや他の既存のメディアを活用してもいい。問題は手段ではありません。情報戦に負けることで、国民の誇りや国益が損なわれてはならないのです。

週刊朝日 2015年4月17日号