※イメージ写真 @@写禁
※イメージ写真 @@写禁

 本誌3月20日号で、改正臓器移植法施行から5年となる現在、脳死下での提供数がさほど増えていない現状を取材し、報告した。ところが、実は心停止後の提供も急激に減っていた。日本臓器移植ネットワークによると、施行前の提供数は年間70~100件ほどだったが、2014年はわずか27件にとどまる。なぜ、ここまで減っているのか。

 そもそも、心停止下で提供できる臓器は腎臓や角膜、膵臓と、骨や皮膚などに限られている。一方、昨今報道されるのは心臓や肺などが提供される「脳死移植」がほとんどで、センセーショナルに扱われがちだ。このため、心停止後の臓器提供に意識が向きにくくなっているのではないかと推測する専門家もいる。

 一方、「心停止下での提供はわれわれのような移植医だけでなく、臓器を提供する病院の救急医や脳外科医の負担が大きい」と指摘するのは、東邦大学医療センター大森病院腎センターの相川厚医師だ。

「脳死は死までの時間がある程度把握できるが、心停止下では心臓が自然に止まるまで待つことになる。その間、関係する医療者は何日も待機しなければならないんです」

 相川医師はかつて、下着や歯ブラシを持ち込んで何日も医療機関で待機した経験がある。だが今は医師不足や医師の仕事が多様化したこともあり、そうした医療が成り立ちにくくなっているという。

「心臓死では血圧が徐々に下がって心臓が止まる。血圧が低い状態が長く続くと腎機能も低下し、移植をしても生着しなかったり、移植自体ができなくなったりする可能性もあります」

 移植までの時間が長引くほど、不利になる。だからこそ、一分一秒を惜しんで移植医は待機するが、それでも脳死下での提供による移植よりは成績は落ちてしまう。それも心停止下の提供を難しくしているという。

 心停止は平たく言えば「心臓が止まるという一般的な死」。だからこそ死の判定が困難になるとの見方もある。聖マリアンナ医科大学東横病院脳神経外科の小野元医師が説明する。

「脳死には瞳孔や脳幹反射、脳波などから判定する細かいマニュアルがありますが、心臓死に至る過程にはそれがない。延命治療を受けるかどうかも含め、人が亡くなる原因や心停止に至るまでの過程は千差万別で、マニュアルが作りにくいこともあると思います」

 どんな基準をもとに、回復する見込みのない状態、つまり「終末期」とするかについて日本救急医学会と日本集中治療医学会、日本循環器学会の計3学会が14年、「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン」を提言した。だが、終末期の定義は「適切な治療を尽くしても救命の見込みがないと判断される時期」と、脳死に比べて具体性に乏しく、携わる医療機関や現場の医師の判断に委ねられる。小野医師は「カルテ記載やチーム医療への展開においてはとても有効だが、医療現場はさまざま。施設ごとに対応しているのが基本です」と話す。

週刊朝日 2015年4月10日号より抜粋