ドラマ評論家の成馬零一氏は、3月からはじまった『その男、意識高い系。』をこう評する。

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「意識高い系」とは、言うことは立派だが、中身が全然伴っていない若者を揶揄する時に使われているネットスラングである。

 ツイッターやフェイスブックといったSNS(ソーシャルネットワークサービス)が普及し、就職活動にネットを使った人脈作りが必須になった2010年以降、学生主体の就活イベントの謳い文句として「意識の高い学生たちが集まる」と言われたことが、その語源とされている。

 そんな、「意識高い系」の若者に振り回される女子社員の姿を描いたコメディドラマが、NHKのBSプレミアムで3月から放送がはじまった『その男、意識高い系。』だ。

 物語の舞台は中堅IT企業「早乙女会計ソフト」。34歳の営業課長・坪倉春子(伊藤歩)は、社長の英断で入社させた24歳の一条ジョー(林遣都)をリーダーとする携帯電話用のゲームアプリ開発部門に配属され、乙女ゲーム(女性を主人公とした恋愛ゲーム)を作ることになる。

 メインライターは安達奈緒子。11年にフジテレビ系の月9(月曜夜9時枠)ドラマ『大切なことはすべて君が教えてくれた』を執筆して以降、次々と意欲作を発表している期待の新鋭である。

 本作で描かれるIT企業のゲーム開発は、安達の代表作であるITベンチャー企業のカリスマ社長と女子大生を主人公にした『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系)をよりコミカルにしたもので、安達が得意とする“自己中心的な男性に翻弄される女性”という関係は、本作でも健在だ。

 一条は、「社長は、今までの会計ソフトではサバイバルできないというリーダーとしてのリスクヘッジの一環でエンターテインメントビジネスにコミットしたんです。そのチャレンジをエンカレッジする意味でランコミュニケーションズとしてリボーンするべきだと思ったんですよ」と、ビジネス用語を会話に盛り込む口ばかり達者な若者だ。何だか、意識高い系というよりは、ルー大柴っぽいノリだが、そんな、自信満々だが内実が何も伴っていない一条に、春子は翻弄されていく。

 年齢から推察するに春子は、バブル崩壊以降の就職氷河期に社会に進出したポスト団塊ジュニア世代だろう。この世代は、ネットカルチャーの先駆者でもあり、IT系のベンチャー企業を立ち上げた人間も多い。

 対して、上のバブル世代はITに疎く、昔ながらの日本型経営にどっぷり浸かっていて保守的。一方、下のゆとり世代は生まれた時からパソコンや携帯電話が当たり前のデジタルネイティブだが礼儀作法は無礼極まりなく、まるで宇宙人のように見える。その狭間にいるのが、アラフォーに突入しつつある春子たちポスト団塊ジュニアなのだ。

 本作が面白いのは、そんな春子が、「意識高い系」の一条を全否定していないところだ。一条にうんざりしながらも、春子は彼の前向きな行動力だけは認めている。そして少しずつ、一条の考え方に理解を示すようになっていく。

 つまり、今の日本の企業が抱えている世代間の断絶を描写した上で、その断絶を春子がどうやって埋めていくのか、というめんどくさ~い課題を丁寧に描こうとしているのだ。

 主戦場だったフジテレビの月9から、いい意味で“意識高い系”のNHKに活動の場を移したことが、安達にどのような影響を与えるのかも含め、今後が楽しみである。

週刊朝日 2015年4月3日号