GDPではアメリカに次ぐ大国として力を示す中国。そんな中国が変革のときを迎えていると前中国大使の丹羽宇一郎氏(76)は指摘する。

*  *  *

 中国は「世界の工場」から「世界の市場」に、高度成長から安定成長へ舵を切りました。最低賃金は上昇を続けています。内需型の第3次産業の伸びは期待できますが、それは外国からの投資減少も招きます。サービス業に工場建設ほどの資金は必要ありません。

 今の中国は日本の70~80年代に似ていると思います。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が流行語となり、所得が伸び、円が強さを増した時期です。恐らく今年の中国の成長率は6%台。それで正常です。8%なら逆に危ない。バブルですから“中国売り”にシフトすべきでしょう。

 習近平は今年、軍事パレードを行います。権限掌握に自信があるのでしょう。「政冷」も自国民にアピールできる要素ですが、「経冷」になるかは未知数です。今後の課題は投資保護協定や知財保護の促進です。特に中国の司法は刑事も民事も未整備。これでは安心して投資できません。

 だからこそ、日本人は中国を過度に恐れたり、嫌悪したりする必要はないんです。中国が真の先進国となるにはあと20年かかります。日本はそれだけのアドバンテージを持っている。日本の強さは技術と教育ですが、これほど予算と時間のかかるものはありません。

 しかし文科省の予算などを見ると、安倍政権が逆行しているように思えて気がかりです。株価上昇に奔走するのは全く本質的な政策ではありません。

 かつての旧制高校を卒業した財界人に比すると、今の経営者は本質的な教養が希薄になっているように思えます。読書はしてもハウツーものばかり。対外投資をはじめとする経営は経済合理性に基づいて行われるべきですが、それを支えるのは自分なりの哲学と価値観。その二つは古典を読むことでしか養われないと私は信じています。

週刊朝日 2015年4月3日号より抜粋