入試も終わり入学シーズンを迎える今、『桐島、部活やめるってよ』で早稲田大学在学中に小説家デビューした朝井リョウ氏が、学生時代を振り返った。

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 私はおなかが弱いんですよ。緊張するとダメ。普通の人が便意の音階を「ド」からドレミファと上がっていくとすると、私はいきなり「シ」から始まる。だから入試は腹痛との闘いでもありました。

 ご飯を食べると、出る、わけじゃないですか。じゃあ、食べなければいいだろう、ということで、入試の当日は、朝ご飯を抜いたんです。それが予想外の結果に。試験で興奮してアドレナリンが出たからか、3教科目の日本史で動けなくなっちゃった。空腹が限界を超えて。問題文なんか読める状態じゃない。ほとんど気を失ってた(笑)。

 でも、私が志望した文化構想学部は、センター試験の数学を利用した併願ができた。国立文系も視野に入れていたので結局、センター数学に救われました。

 学部では文芸・ジャーナリズム論系で学びました。大学のパンフレットで堀江敏幸先生(教授)の名前を見つけてから、絶対ここにいくぞと。センター試験の過去問題で読んだ先生の小説に引き込まれた。

 とにかく変わった人ばかりいましたね、大学は。小説書いたり映画撮ったり。創作が授業の提出物として認められる空間でした。

 ダンスサークルで活動したり、バイトしたりもしていましたが、デビュー作の『桐島、部活やめるってよ』をはじめ、学生のうちにとにかく5冊書くのが目標。そんなことやった人はいないだろうという単純な動機だったんですが、結構しんどかった。後から乙一さんがもっと書いていらしたことを知るんですが(笑)。

 先生もおもしろい人が多かった。中国語を教えるクラス担任も自由でチャレンジングな先生で。

「私のクラスは通常の4倍のスピードで進むので時間は4分の1。その教え方で通常クラスとテストの点にどう差が出るかをみたい」

 基礎演習の先生は、あちこち学生を連れていく。

「対馬に行きたい人は、○月○日に博多に集合」

 まさかの博多集合。現地で泊まるのは廃園になった幼稚園。近所を軽トラで回って、ふとんを貸してもらうのが初日の仕事でした。

 夜は島の人がなぜかみんな飲みに来る。島のお祭りの研究という目的があるので、踊りを教えてもらうんですけど、学生はすぐふざけるからすごく怒られたりして。先生はお酒が強くて料理がうまかった。

「大人の世界って、大したことない。結構くだらない」と大学で思えたのはよかった。何も知らずにいきなり就活で、立派なことを言う“大人”と対面すると緊張してしまう。大人を圧倒的な存在と感じていた高校生と社会人との間にある、グラデーションの時代。好きな人と、モノとを自由に選択できて、自由に迷えた、有限の時間でした。

週刊朝日 2015年3月27日号