オープン戦が始まり、その仕上がりが話題になる松坂大輔(ソフトバンク)。東尾修元監督は本誌連載のコラムで、不調の松坂について言及した。

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 ソフトバンクの松坂大輔の投球については、いろんな角度で論じられている。投球フォーム、球速、制球などだ。誰が見たって、かつての松坂大輔の姿とは別人に見えるだろう。

 ただ、いろいろと言う前に、理解してもらいたいことがある。大輔は米国で右肘の手術をして4年近くたった今でも、日によって状態に変化があるということだ。寒ければ、登板までの調整は入念に運ぶ必要があるし、セーブして投げなければならない。そして、右肘をしっかりと上げて投げる形をとろうにもとれない時がある。年齢も重ねたから、西武時代の姿と比較することは、もはや意味がない。

 その上で、最初の実戦2試合は酷だった。3月4日の阪神戦(甲子園)では、キャンプ終盤の右手のマメの影響もあって満足なブルペン投球も行えなかった。半年ぶりの実戦で、キャンプ中盤で良い方向にいっていた投球の形は出なかった。そして2度目の登板となった10日の巨人戦(長崎)は試合前まで雪が舞った。本人も故障の恐怖を口にしたが、やろうとしたことは何もできない状態だったろう。

 このコラムを読んでもらっているころには、3度目の登板かな。過去2戦でまったく調整すらできなかったわけだから、ヤフオクドームでの登板は「一発勝負」といえる大事な登板となる。私が注目しているのは、体の中心線から右肘が離れていないかだ。左肩が開くと、体の中心から右腕が離れ、腕は横振りになるし、腕の力だけで投げることになる。単純に言えば、腕が棒を振り回すようになっている。少しでも柔軟性が出てこないと、制球もつかない。長く野球をやる上でも重要なポイントとなってくる。

 
 右肘に不安がある投手をなぜ、甲子園、長崎と天候に左右される屋外で投げさせたかは、工藤監督に聞かないと分からない。2試合とも初回の球速は130キロ台中盤だった。今の大輔は球の質うんぬんを論じることもできない段階である。その意味でも、3戦目の変わり身で首脳陣を納得させて開幕ローテーションの席を得ないと、ほかの選手の士気に影響する可能性だってある。何よりも本人が分かっていることだと思うけどな。

 それにしても、今年のオープン戦は天候不順による中止が多い。ただでさえ、近年は開幕が3月下旬と早まって、オープン戦の試合数が減っている。先発投手は15イニング前後で開幕を迎えなければならないが、中止が重なれば、さらに実戦は減る。これだと、各球団の監督も開幕直後から先発陣に完投は望めないよな。先発投手には80球とかの制限をつけて、段階を踏ませないと、故障にもつながってしまう。

 特に昨年の下位球団はオープン戦で自信をつけ、最高の準備をしてスタートダッシュしたいところ。調整に狂いが生じれば、勝つ経験が少ない選手たちは、ただでさえ調整不足の不安が出やすい。逆に戦力が整うチームは手探り状態で入っても巻き返せる。その辺りの精神的な部分も開幕直後にどう影響するか、注目したいところだ。

 松坂大輔に話を戻すけど、もう少し辛抱して見守りたい。公式戦に入ってチームの戦力とならなければ、厳しい批判にさらされるわけだから。

週刊朝日 2015年3月27日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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