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 ドラマ評論家の成馬零一氏は、震災を題材にしたNHKのドラマは皮肉や絶望もある誠実な作品だとこういう。

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 この原稿を書いているのは3月11日の夜。2011年に東日本大震災が起きて、4年が経つ。

 この時期になると、NHKは震災をモチーフにした単発ドラマを制作している。中でも、最高傑作と言えるのが、13年に発表された一色伸幸・脚本の『ラジオ』だ。

 津波で家が流されたショックで引きこもりになった女子高生が、女川(おながわ)さいがいFMというサイマルラジオにかかわることで変化していく姿を描いた屈指の青春ドラマだった。  

 また、10年に放送された阪神・淡路大震災をモチーフにした『その街のこども』も忘れられない。震災の時に子どもだった男女が、15年後の1月16日の神戸で偶然出会い、夜の神戸を歩くというドラマで、15年という月日を経たが故に描けた傑作だ。本作で監督を務めた井上剛と音楽を担当した大友良英はその後、連続テレビ小説『あまちゃん』に参加。岩手県北三陸市という架空の町からアイドルを目指す女の子を描いた内容で、登場人物が東日本大震災に遭遇する場面が描かれ話題になった。

 今年の3月10日夜10時から放送された『LIVE! LOVE! SING! 生きて愛して歌うこと』は、『ラジオ』の一色伸幸と『あまちゃん』の井上剛、大友良英によって制作された。

 物語は、福島で被災し神戸で暮らす女子高生の朝海(石井杏奈)が恋人の教師・岡里(渡辺大知)と福島に向かうロードムービー。二人は、小学校で朝海と同級生だった香雅里(木下百花)、勝(柾木玲弥)、本気(前田航基)と合流し、今では立ち入り禁止区域となっている福島県富波町へと入り、タイムカプセルを埋めた場所へと向かう。

 旅の冒頭、朝海たちは、友達と再会した楽しさから、携帯電話のカメラでお互いを撮影しながらワイワイはしゃいでいる。しかし、福島に近づくにつれ、朝海たちの口数はどんどん減っていく。そして、立ち入り禁止区域に入ると、目の前に広がる廃墟を前にして、茫然とする。

 ドラマというよりは、朝海たちの視点を借りて、立ち入り禁止区域を歩くドキュメンタリーのようだ。

 ドラマ性が後退していく中、代わりに多用されているのが音楽だ。

『ラジオ』や『あまちゃん』と同様、本作もまたJ‐POPミュージカルとでも言うかのように、様々な音楽が劇中で流れる。

 強烈な印象を残すのは、夜の廃墟で行われるお祭りのシーンで流れる「GIGつもり」という音頭調の曲。3月11日に発売されたオリジナル・サウンドトラックに収録されているので是非一度聴いてほしいのだが、「3.11はなかったつもり 地震も津波もないつもり 日本はひとつであるつもり それで安心なつ・も・り」という歌詞は、震災の記憶が風化しつつある日本の空気に対する強烈な皮肉であると同時に『あまちゃん』で描いた祝祭感に対する作り手自身による辛辣な批評にも見える。

 結局、この場面は朝海が見た幻覚だったのだが、震災で命を落とした霊たちの宴のようにも感じられた。

 タイムカプセルを見つけた朝海は小学生時代を思い出し「ここは復活する。そういう、つ・も・り」と叫んだ後、「つ・も・り」と連呼する。

 本作で語られる「つ・も・り」は皮肉や絶望に満ちているが、同時に「つもり」がなければ、何も始まらないという“祈り”も滲ませている。簡単にわかった「つ・も・り」にはなりたくない誠実なドラマだ。

週刊朝日 2015年3月27日号