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 少子高齢化・人口減少が進む日本。それに伴い老後の安定した生活を支える年金制度に不安の声も上がる。早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏は、財政検証の楽観シナリオにだまされないでほしいと年金制度をこう批判する。

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 昨年6月、国の年金が将来にわたって支給し続けられるのかどうかを検証する「財政検証」が厚労省から発表されました。しかし、この結果はあまりに楽観的で仮定の上の虚構です。

 財政検証は、2004年の自公政権下の年金制度改正により導入されました。社会・経済情勢の変化に応じて、5年に一度、財政見通しを作成するものです。当時の小泉純一郎首相らは「年金100年安心プラン」とうたい、「所得代替率を50%にする」と公約しました。つまり、現役世代の給料の半分の年金は維持するとしたのです。

 そして、公約を実現させるために、不自然としか言いようのない非現実的な前提を仮定して、想定外の結論を導いて国民を欺いているのです。

 昨年の財政検証で最大の問題点は、将来の経済情勢に応じて設定された8通りのシミュレーションがすべて、実質賃金上昇率がプラスに想定されていることです。そもそも公的年金は、給付も負担も賃金水準に応じて変動します。実際、ここ数年の実質賃金上昇率はマイナスです。あまりに楽観的と言わざるを得ません。私が現実的な数値に置き換えて試算すると、2040年までに年金財政は破綻するという結果となりました。

 もう一つ重大な問題点は、年金積立金の「運用利回り」が1.7~3.4%と高すぎる点です。年金財政を見るときには、賃金上昇率を上回った分の「実質的な運用利回り」と言われる利回りが重要になってきます。ここ1~2年程度は、円安による株高の“アベノミクス”効果がありました。しかし、これは一時的なものです。

 今後の日本経済の潜在能力を考えると、年金財政はひっ迫するので、その分、もらえる年金は少なくなります。

 それでも、年金財政を継続させるための道はもちろんあります。

 まずは、実質賃金上昇率1.5%を達成することです。経済が成長し賃金が増えれば現役世代が支払う保険料が増えます。非常に難しい目標ですが、挑む価値はあるでしょう。ただし、製造業の復活を目指すという時代錯誤的な方向性を打ち出すアベノミクスでは実現は不可能です。もっと根本的に産業構造を変えていく必要があります。それができなければ、マクロ経済スライドをデフレ下でも発動し、支給開始年齢を引き上げて、若い世代の負担を軽減する必要があります。

 われわれ国民は年金が危機に瀕しているというこの現実を受け入れなければなりません。本気で経済成長を目指すのか、年金改革を受け入れて全世代で痛みを分け合うか、若者世代に重いツケを回すのかという選択を迫られているのです。

週刊朝日 2015年3月20日号