※イメージ写真
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 ドラマ評論家の成馬零一氏は、深夜ドラマ『お兄ちゃん、ガチャ』について「問題作であることは間違いない」という。

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 日本テレビ系で土曜深夜に放送されている『お兄ちゃん、ガチャ』は、どうかしているとしか言いようがないカルトなドラマだ。

 物語はシンプル。主人公の少女・雫石ミコ(鈴木梨央)が、ゲームセンターで「お兄ちゃん、ガチャ」という小学生の女の子だけが回すことができる機械で、理想のお兄ちゃんを引き当てようとする。お兄ちゃんはランク付けされており、ミコは最初にSランクのトイ(岸優太)を引き当てるが、トイのSはドSのSで、ミコにちっとも優しくしてくれない。

 ミコはトイをキープしたまま、理想のお兄ちゃんを求めて、優しいお兄ちゃん、ヤンキー風のお兄ちゃん等、様々なお兄ちゃんを引き当てるのだが、中々、理想のお兄ちゃんは現れない……。

 脚本は、1990年代に『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)や『高校教師』(TBS系)など、様々なメガヒットドラマを送り出してきた野島伸司。近年では児童養護施設の描き方が物議を醸した『明日、ママがいない』(日本テレビ系)の脚本監修や、堂本剛と中山美穂が出演した『プラトニック』(NHK−BS)など、様々な話題作を発表している。

 中でも『お兄ちゃん、ガチャ』と同じ深夜枠で放送された『49』は近年の代表作だろう。

 息子の体に魂が乗り移った父親が、もう一度学園生活をやり直す青春ドラマだが、印象的だったのは「私のオキテ」という挿入歌。作中に登場する女装アイドルグループ・チキンバスケッツが歌う楽曲で、野島伸司が作詞したハムスターと飼い主の関係を恋愛に置き換えた、「私のオキテに背いたらオカワリはあげない」というような歌詞が、おかしかった。

 本作の挿入歌の作詞家は不明だが、

「ガチャ、ガチャ、お兄ちゃん♪」
「ガチャ、ガチャ、お兄ちゃん♪」

 というフレーズが耳に残って離れない。これもおそらく、野島の手によるものだろう。お兄ちゃんが「よりどりみどりで迷っちゃう~」とか、こんなイカれた歌詞を書けるのは野島だけだ。

 監督は、日本テレビきっての映像派と言われる大谷太郎。野島ドラマは『世紀末の詩』以来だが、近年は『銭ゲバ』や『殺人偏差値70』といった前衛的なドラマを手掛けている。

 本作もまた、挑戦的な映像だ。CGを多用した部屋の内装や登場人物の服装の色使いはかなりどぎつく、駄菓子屋に置いてある体に悪そうな、でも目を引くお菓子みたいな世界観となっている。

 ちなみにガチャとは、レバーを回すとカプセルに入った玩具が出てくる小型自動販売機のことで、昔はガチャガチャと言われていた。携帯電話で遊ぶソーシャルゲームで課金してアイテムを入手することも「ガチャ」と言われており、おそらく野島は、ガチャを用いて消費社会の絵解きをしようと目論んだのだろう。

 お兄ちゃんたちをジャニーズ事務所の若手俳優が演じていることもあってか、複数の美少年を消費するイケメンドラマに対する批評にもなっている。ガチャから生まれたお兄ちゃんたちは、ミコに選ばれるために力を尽くすが、ミコにごめんなさいと言われて最後に消去される。箱の中でミキサーにかけられたように粉微塵となるのだ。画面には直接映らないが、かなり残酷な場面である。

 素直に面白いと言うには、どこかためらう作品だが、問題作であることは間違いない。

週刊朝日 2015年3月20日号