胃がん手術の展望は…(イメージ写真)
胃がん手術の展望は…(イメージ写真)

 今年の日本胃癌学会総会の会長を務める市立広島市民病院外科・副院長の二宮基樹医師に、胃がん手術の今後の展望と、先進医療を選ぶ際の注意点を聞いた。

 胃がんを根治するために、手術で第一に必要なことは完全にがんを切除することです。病巣と一緒に、転移の可能性があるリンパ節を取り去る日本の標準的な手術は、手術後の生存率がよく、世界のスタンダードとなっています。

 からだへの負担が少ない腹腔鏡下手術が一般に普及し、近年、ロボット手術が登場して話題を呼びました。前立腺がんではすでに保険が適用されていて、胃がんでは先進医療として、合併症や生存率などを検証する臨床研究が始まり、数年後の結果が注目されます。

 ロボット手術は、熟練した術者が少ないことや高コストといった課題もありますが、人間の手より精緻な動きができるため、最近増加傾向にある胃と食道を連結する部分にできる胃食道接合部がんの手術や、血管や神経をつなげる細かい吻合など、多くの場面で利点が生かされるでしょう。

 一方、早期胃がんの9割以上が治癒する時代になり、次のステップとして切除範囲を小さくする「縮小手術」を目指す医師が増えています。その前提となるのが、リンパ節転移の有無の確実な診断です。

 センチネルリンパ節生検は乳がんなどで保険適用されていますが、胃がんの場合はリンパの流れが複雑であり、また特殊なトレーサーという色素を用いた方法で、的確な箇所に打たないと正確な判定ができないために技術の熟練も必要になり、現状では限られた施設でのみおこなえる先進医療です。今後の臨床研究の成果が期待されていますが、現時点では100%リンパ節転移を判定できるとは言い切れないため、リンパ節を切除することが推奨されています。

 ただ、縮小手術を希望する患者さんが多いのも事実です。その際に注意してほしいことは、「胃を大きく残せば、必ず手術後の生活の質(QOL)がよくなる」とは限らないことです。切除する部位や大きさにより、程度の異なる後遺症が現れ、患者それぞれで手術後のQOLは変わってきます。主治医とよく相談したうえで各自に最適な手術法を決定してほしいと思います。

週刊朝日 2015年3月13日号