村木:推測ですが、Rさんが警察の呼び出しに応じない上に、週刊誌などで警察を揶揄するような言動をしていて、警察は相当カリカリしていたはずです。少なくとも呼び出しに応じていれば、Rさんの再逮捕はなかったのではないでしょうか。そもそも当初の事件に北原さんは関係していない。でも家宅捜索してみたら、うまい具合に「わいせつ物」があった。さらに北原さんも呼び出しに応じず、海外にも頻繁に行っている。逃亡の恐れがあれば、理屈の上で逮捕状は取れるし、ネームバリューもあるから、警察には「お手柄」になるんです。

北原:村木さんとは、逮捕前に打ち合わせをしました。そのときに「三つのメニューがあります」とおっしゃいましたよね。(1)闘う(2)闘わない(3)ゆるく闘うと。私は(3)を選びました。

■現実的だった「ゆるく闘う」

村木:つまり「わいせつ物とは思っていなかったけれど、警察が認めるなら仕方がない」という方針。僕は正直、闘わなくていいと考えていました。

 今回の事件は、北原さんの言論活動とは関係ない。言論弾圧であれば方針は立てやすかったが、そうじゃなかった。それに、北原さんは本業でわいせつ物を扱っていて、ちゃんと商売できるようにしてきたわけですが、そことも関係ない。

北原:20年近くこの仕事をしてきましたが、どんなに真面目にやっても一瞬で警察に潰される業種です。警察が「わいせつ」と認定するのは、リアルな性器に見えるか見えないかだけで男性器も女性器も関係ない。そういう中で、女性が安心して性を楽しめる場を作るのが、私の仕事でした。それを今回のことで潰されたくなかった。社員の生活もあるし、お客様の情報もある。「ゆるく闘う」は、最も現実的な闘いでした。Rさんの作品を展示していたギャラリーの関係者は逮捕されていないことからも、性を仕事にしている私は、逮捕しやすかったのでしょう。そう思うと悔しさが募ります。

村木:北原さんを近いところで支えている人たちは皆、「闘わなくていい」という方針でした。これは弁護人としても板挟みにならなくてすんだので、ホッとしました。

北原:私に「ここでは闘わなくていいよ」と言ってくれる人ほど、普段闘っている人たち。権力の気味悪さを知っている女友達でした。

――警察に逮捕されると、警察と検察は取り調べで計72時間、容疑者の身柄を拘束できる。その後、検察官からの勾留請求を裁判官が認めれば10日間の拘束。さらに10日間以内の勾留延長ができる。

北原:マスコミ報道では、私が黙秘したと書かれましたが、警察に見せられた逮捕令状の言葉が理解できなかったので「弁護人が来るまで待ってほしい」と言ったんです。それが黙秘とされました。

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