怪しげな光を放ちながら空にうごめくオーロラ(撮影/写真部・東川哲也)
怪しげな光を放ちながら空にうごめくオーロラ(撮影/写真部・東川哲也)
一斉に走り込んできたトナカイが、円形の柵内をマグロの群れのようにグルグルと“回遊”し始めた(撮影/写真部・東川哲也)
一斉に走り込んできたトナカイが、円形の柵内をマグロの群れのようにグルグルと“回遊”し始めた(撮影/写真部・東川哲也)

 怪しげな光を放ちながら空にうごめくオーロラを、先住民たちは「祖先の霊の囁き」と考えたという。極北の地・ラップランドの旅で見た景色は、すべてが雪の結晶のようにはかなく、美しかった。

【写真】ラップランド 極北の神秘

 北緯70度、気温マイナス25度。フィンランドの最北部に位置するラップランドは、北極圏内の酷寒の地だ。

 高緯度のため、冬は一日中太陽が昇らない「極夜」が続く。この地を訪れた1月下旬の日照時間は4時間ほど。午前11時すぎ、山際にかすかに顔を出したオレンジ色の輝きを見つめ、現地ガイドは「今年初めて見る太陽だよ」と、目を細めた。

 冬は完全に凍結して広大な平原となるイナリ湖を囲むように暮らすのが、先住民族サーミの人々。その主要な生活の糧の一つが、数千年前から続いているというトナカイの放牧だ。 

 1月22日、地域のトナカイ約500頭を集めて柵の中に追い込んでカウントし、食肉にする個体を振り分ける行事「ポロエロトス」が行われた。サーミの男たちは円形の柵内に一斉に駆け込んでくるトナカイの角をつかんで動きを止め、耳にナイフで小さな切れ込みを入れていく。切れ込みの形によって、どの農家の所有するトナカイか見分けられるという。

 仕事を終えたトナカイ農家のペトリ・マッタスさんに何頭のトナカイを飼っているのか尋ねると、困惑の表情に。「トナカイの数を聞くというのは、人にいきなり財布の中身を尋ねるのと同じことだよ」と、やんわりとたしなめられた。トナカイは彼らの財産であり、生活そのものなのである。

 夜、スノーシューハイキングのガイドをしてくれたサーミの青年は「コーヒーでも飲むかい?」と言うやいなや、テキパキと薪を割ってあっという間にたき火をおこし、雪に木の枝を突き刺して即席の囲炉裏を作りあげた。ラップランドでは、これくらい常識なのだという。

 日本からはオーロラ目当ての観光客が多いという。だが、旅のもう一つのハイライトは、シャイだがたくましい極北の民との出会いだった。

協力=The North of Finland(www.OnlyInLapland.com

週刊朝日 2015年3月6日号